2013 Fiscal Year Annual Research Report
7-10世紀東地中海世界におけるビザンツ帝国の対外政策と地方統治制度の関係
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12J09933
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
仲田 公輔 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ビザンツ / イスラーム / アルメニア / 軍事書 / 『帝国統治論』 / 境域 / フロンティア / 『タクティカ』 |
Research Abstract |
本研究は、ビザンツ帝国が多方面からの対外的危機を受けていた7-10世紀を切り抜けるにあたり、周辺勢力との関係の中で、辺境においてその軍制・地方統治制度をどのように運用したかを明らかにすることを目的としている。研究の2年目にあたる本年度は、昨年に引き続いてイスラーム関係方面の考察を進めるとともに、バルカン方面についての研究にも着手した。 対イスラーム関係方面については昨年に引き続いてギリシア語年代記、アラビア語歴史書・地理書、古典アルメニア語歴史書等を用いた考察を進めた。こちらでの成果としては、辺境地域に散在するアラブ人・アルメニア人等の自立的な小規模勢力の役割の重要性が明らかとなった。ビザンツ中央政府はこれらの勢力との関係性を模索し、武力行使だけではなく、懐柔や取り込みなど様々な方策を用いて影響力を持つことを志向していた。時にはこうした小勢力はテマの設置にも利用されており、テマの運用は地域ごとの状況の多様性に合わせて柔軟に行われたと考える本研究の仮説の裏付けが得られた。 後者についてはビザンツにおいて作成され、対ブルガリア戦を想定していると考えられる10世紀の軍事書を中心に研究を進めた。その結果、地方の自律性が重要となる東方とは対照的に、バルカンにおいてビザンツは中央主導での軍事行動を志向していたことが示された。これにより、ビザンツ中央政府においても各方面での辺境の性質の差異が認識されており、それに合わせた政策が取られていることの一端が垣間見られた。 他方今年度は海外での調査活動も重視した。8-9月にはギリシア・トルコ、英国オックスフォード大学での研究滞在を行った。図書館等ではこれまで入手が困難だった文献の複写等も行うことができ、望外の成果を得ることができた。 昨年度開始したビザンツ対外関係の重要史料『帝国統治論』の翻訳は、村田光司氏(名古屋大学)と共同で進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究に必要史資料に関しては十分に収集することができ、また史料論的な考察も行うことができた。そこから、今年度から本格的に分析を始めたアルメニア語の史料を含めて、多くのデータを収集できた。またはビザゆンツ=東方関係以外についての考察も開始し、比較史的研究に向けての土台とすることもできた。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に計画にそって研究を推進し、ビザンツ・北方関係を視野に入れた検討を開始する。平行してビザンツ・イスラーム関係およびビザンツ・バルカン関係についてもさらに分析を深めていく。 次年度は研究の最終年度となるため、研究の総まとめとしてビザンツの東方・西方・北方それぞれとの関わり方の比較検討を完成させたい。そこからは周辺世界の多様性と、それに対応するビザンツの政策のフレキシビリティが浮かび上がると考えられる。
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Research Products
(4 results)