2012 Fiscal Year Annual Research Report
中期朝鮮語文献内に共時的に共存する言語的変種に関する研究-個人語の観点から-
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12J09957
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
杉山 豊 東京外国語大学, 大学院・地域文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 中期朝鮮語 / 杜詩諺解 / 書誌 / 成立過程 / 個人語 / 声点 / 音韻 / 紙背文書 |
Research Abstract |
2012年度は、年度の前後を通じ、韓国国内の研究機関、所蔵機関を訪問し、それら各機関に所蔵される15世紀の朝鮮語ハングル文献の実見調査を行い、朝鮮語のアクセント、イントネーションを表記するために付された声点の一つ一つに至るまで、市販の影印本との対校による綿密な調査を行った。 このような原本の実見調査は、既存の影印資料における信頼性の限界を克服する上で極めて有意義なものといえる。ことに、15世紀の朝鮮語文献内部に共存する言語の変種(個人語)の区分を判定するに当たって、アクセント、イントネーションの特徴を第一の基準とする報告者の研究においては、以上のような調査は必須不可欠な過程である。 上述の調査を、その都度電子データベース化し、考察を行った。結果、以下のような事実を明らかにし、学会発表、および学術論文の形で世に問うことができた。1)『杜詩諺解』巻10の二種の異本間の校勘の結果、後者は前者に比べて相対的に誤りの少ない善本に属する。このことは言語資料としての信頼性の確保という点において、資料批判としての意義を有する。2)巻10のうち蔵書閣所蔵本に残された紙背文書の内容を検討した結果、『杜詩諺解』が1481年に完成したとする通説にはなお疑問の余地の存することが明らかとなった。同一文献内において言語的変種が共存するに至る背景と、当該文献の編纂過程とは無関係であり得ない。この事実は、『杜詩諺解』編纂過程の一端を明らかにし得たという意味で、報告者の研究においては、やはり資料批判の一環として位置づけられる。3)影印本を用いた調査結果ではあるが、『杜詩諺解』巻3においては、同一の巻の内部においても言語的特徴による区分が存することを明らかにし、文献内において言語的変種の共存する様相の、一つの例を示し得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年度は、上述の如く文献資料の実見調査と電子データベース化、およびそれに基づく書誌的研究と、言語的区分に対する音韻的観点からの考察を行ったという点で、おおむね当初の計画に沿って研究を進め得たと考えられる。ただし、音韻的観点からの考察対象が特定の一部の現象に止まった点で、(2)と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、各地の研究・所蔵機関の所蔵に係る15世紀朝鮮語ハングル文献の実見調査を引き続き行いつつ、信悪性のある資料に基づいて考察を進めること、2012年度と同様である。ただし、2012年度の研究成果は、特定文献の特定部分(巻)に対する個別的考察に止まっており、当該文献全体、乃至は当該時期の資料全般に対する巨視的観点からの考察には踏み込めなかった嫌いがある。従って今後は、これまでと同様、微視的な方法論を用いつつも、同時にこれまでの個別的研究成果を綜合し、より広範な視野からの接近を試みたい。このことは、狭隘な視野からは見えにくかった、「個人語」の差異による文献内の境界を、浮き彫りにすることを可能にするものと期待される。
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Research Products
(3 results)