2012 Fiscal Year Annual Research Report
古本州島における稜柱系細石刃石器群の形成過程の研究
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12J09992
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
夏木 大吾 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 古本州島 / 稜柱系細石刃石器群 / 形成過程 / 技術的多様性 / 編年 / 地域集団 / ネットワーク / 黒曜石 |
Research Abstract |
本年度の調査は、古本州島における稜柱系細石刃石器群の形成過程を明らかにすべく、西南日本における稜柱系細石刃石器群の技術的多様性の把握、編年の構築を目的とした調査を重点的にすすめてきた。同時に日本列島の細石刃石器群の形成と関連して、韓国とロシアの細石刃石器群の多様性や年代的位置づけを検討するために資料の実見調査をおこなった。 r東京大学考古学研究室紀要第27号』上で発表した中部・関東地域の研究では、稜柱系細石刃石器群における技術的変異について地域ごとの石材需給環境や土地利用の関連から説明した。一方で、黒曜石産地推定分析に基づき、地域集団ごとの移動経路、石材需給ネットワークについても検討し、移動領域の異なる集団間の繋がりを具体的な事例を確認した。 九州では長崎県の福井洞穴など8箇所の出土資料の調査によって、稜柱系細石刃石器群のなかにも2つのグループが存在することが明らかになった。この二つの稜柱系細石刃石器群がどのような時間的・空間的関係をもつのかが課題として浮かびあがった。これによって、西南日本南西部における稜柱系細石刃石器群の形成過程論を考えるうえで、重要な課題が得られた。 韓国抱川市ヌルゴリ遺跡の調査では、九州西北部に局所的に存在する細石刃核と類似する細石刃核を確認し、朝鮮半島-九州間をめぐる細石刃技術の伝播説を検討するうえで重要な知見が得られた。 ロシアでは、シベリア・チタ州のザバイカル人文教育大学、ノボシビルスクのロシア科学アカデミー・シベリア支部で資料調査をおこなった。シベリアでは旧石器時代~青銅器時代まで長期にわたり細石刃技術が利用され、時間的に細石刃核の形態的特徴が大きく変化することが確かめられた。さらに、細石刃核形態がもつ意味について、時間的に変化する人類集団の居住様式や資源利用のあり方との関連を考えるうえでの重要な比較資料が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究は、西南日本における稜柱系細石刃石器群を含めた前後の編年の構築が未だ途上であるがゆえに、当初の計画通りに進展しているとはいえない。しかし、当初想定した以上に広い地域、長い時間幅に含まれる資料を視野に捉えることができたおかげで、古本州島における稜柱系細石刃石器群形成の構造的背景に関する理解が深まった。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度から本格的に着手する東北日本地域の研究と統合していくことで、古本州島における稜柱系細石刃石器群の形成のタイミング、さらに細石刃技術情報の伝達にかかわる地域集団のネットワークについても何らかの解釈を示すことができると考えている。
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