2012 Fiscal Year Annual Research Report
東アジアの障害者差別禁止法をめぐる障害者運動の比較研究-「われわれ」論・再考
Project/Area Number |
12J10011
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
後藤 悠里 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 「われわれ」論 / 障害者差別禁止法 / 社会運動 / 東アジア / 香港 / 韓国 / 障害者 |
Research Abstract |
「われわれ」の形成の仕方について、現在、障害者運動には2つの方向性がある。主流は障害者の利害の独自性を訴え、障害者間の連帯を強化して目的達成を目指す方向性である。もう1つは、あらゆる人が障害者となる可能性があるということを前面に出し、社会における連帯を広めていこうとする方向性である。しかしながら、東アジア(香港・韓国)の障害者差別禁止法をめぐる障害者運動を対象としたこれまでの研究成果から、筆者はもう1つの方向性である「暫定的なわれわれ』を見出した。これは、時期やテーマによって暫定的に「われわれ」集団を作り、時期が過ぎれば一つひとつの「われ」に戻っていくような社会運動団体を指す。本研究は、「暫定的なわれわれ」を形成する条件を探ることを目的の一つとしている。 1年目の今年度は、理論的検討と質的調査をおこなった。理論的検討として、「われわれ論」に関連する社会学理論、社会運動論における概念を整理した。質的調査として、具体的には、韓国において、資料収集、インタビュー調査、会議での参与観察、座り込みの観察などをおこなった。異なる障害者団体に属する人々がどのように関わりをもっているのかについてインタビュー調査、参与観察などから明らかにしようとした。 今回明らかになったのは、「第三者」の存在が、障害者団体の「暫定的なわれわれ」形成に重要な意義をもつことである。とくに、団体間の葛藤がある場合に、仲裁者となる障害者団体が存在していることがみられた。これは、障害者差別禁止法制定以前にもみられた動きであるが、現在も、その活動が継続していることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究計画は、「われわれ」論についての理論的検討と障害者差別禁止法の実効性に関する量的調査の2つから構成されていた。しかしながら、事前準備としておこなわれたインタビュー調査の中で、「第三者」の役割がクローズアップされてきた。これは、当初の仮説にはない変数であった。そこで、本年度は、量的調査の準備をしながらも、 「第三者」の役割に注目して、インタビュー調査や参与観察をおこなった。調査の中で新しい知見を得て、その概念の検討をおこなったという点で、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、障害者団体間のかかわりについて焦点を当てて研究をおこなった。障害者団体間だけではなく、ほかのマイノリティとのかかわりや健常者とのかかわりについては今後も深化させていかなければならない課題である。次年度からも、「第三者」論の展開を図りつつ、「暫定的なわれわれ」についての理論を構築していく予定である。
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Research Products
(3 results)