2012 Fiscal Year Annual Research Report
明治中期・大正期私立高等教育機関の経営と財務-早稲田・慶應義塾の比較分析-
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12J10076
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
戸村 理 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 教育と財務の相剋 / 大学教員の給与 / 大学経営 / 私立高等教育機関 / 教育課程 / 大学教員の階層 |
Research Abstract |
本研究は、明治中期から大正期における我が国私立高等教育機関の経営と財務の実態について、慶應義塾と早稲田大学を事例に、各大学所蔵の財務史料を用いて比較的に考察することを目的としている。 本年度得られた知見は以下の点である。 1.教育課程の分析については、明治期の慶應義塾大学部では教員の7割が専任教員であったことが判明した。ただし専任教員の実際の授業担当時間や配置については本科と予科、そして本科の学科間で差異が存在していた。詳細には本科よりも予科に専任教員が多く配置され、本科では理財科(経済)の授業科目に専任教員が多く配置されていた。 2.一方で教員給与の分析では、専任教員給与総額の合計は、非常勤教員も含めた大学部の教員給与総額の9割を占めたが、専任教員間で給与額にはかなりの格差があった。とくに日本人の専任教員を対象に処遇と負担から分析を試みると、少数の「高級かつ低負担」の専任教員と、多数の「薄給かつ高負担」の専任教員という階層性が存在することが確認された。 3.以上の教育課程と教員給与の考察から得られた知見を総合すると、高給かつ低負担の専任教員は専門性が高い本科の専門科目を担当した傾向が、薄給かつ高負担の専任教員は専門性の低い語学科目や基礎科目を担当した傾向が見られた。つまり、ヒトやカネといった経営資源が限られた当時の慶應義塾では、学科運営の差異(優先度)を認め、授業科目の重要性に応じて適当な教員を確保し、適正な処遇を与えるべきだとする教育課程と教員の資質を考慮した階層性を伴う経営管理が実施されていたといえるのである。それは当時の経営に携わった人物の言説からも確認できた。 以上の知見について、2012年10月に開催された日本教育社会学会において口頭発表を行い、同学会に論文を投稿した。その論文については採択が確定し、来年度(2013年6月)に公表される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の計画通りに研究が進行し、学会発表および学会誌への論文採択も達成することが出来た。これは当初の想定以上に研究結果がクリアとなったためであり、当初の計画以上に研究が進展していることの証左と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目も引き続き慎重に史料分析を行い、これまでの研究で得られた知見を交えて精緻な比較分析を行うことが求められる。 加えて初年度と同様に、研究成果を論文として公表することが求められる。
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Research Products
(2 results)