2013 Fiscal Year Annual Research Report
植物スフィンゴ脂質代謝酵素の機能同定と分子育種への利用
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12J10084
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
石川 寿樹 埼玉大学, 理工学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | スフィンゴリピドミクス / LC-MS/MS / 長鎖塩基不飽和化 / イネ / シロイヌナズナ / スフィンゴ糖脂質 / 酸化ストレス耐性 / 低温ストレス耐性 |
Research Abstract |
植物のスフィンゴ脂質には親水性糖鎖構造の異なる複数のクラスが存在し、さらにセラミド骨格の不飽和化及び水酸化に起因する構造多様性により、少なくとも数百種に及ぶ分子種が存在する。植物スフィンゴ脂質が担う役割とその制御機構を分子レベルで解明するためには、このような多様な分子種を生み出す代謝系全体を包括的に理解することが必要である。昨年度までに確立した、植物のスフィンゴ脂質分子種を網羅的に定量解析するスフィンゴリピドミクスの手法を用い、本年度はさらにスフィンゴ脂質とストレス耐性との関連性を追求した。はじめに、低温ストレスに高い感受性を示すスフィンゴ脂質不飽和化酵素SLD変異体および細胞死抑制因子BI-1欠損シロイヌナズナの低温応答とストレス耐性におけるスフィンゴ脂質代謝動態の解析により、低温に曝されたシロイヌナズナでは、長鎖塩基不飽和化を中心としたスフィンゴ糖脂質合成系の体系的な制御によるスフィンゴリピドーム再構成が起こり、それがシロイヌナズナの長期低温ストレス耐性に寄与することを明らかにした。 さらにスフィンゴ脂質代謝改変イネの脂質プロファイリングにより、長鎖塩基Δ4位及びΔ8位の不飽和化が、イネスフィンゴ糖脂質生合成系においてそれぞれ異なる様式で律速段階となっていることを明らかにした。このうち特にΔ4不飽和化酵素はBI-1と物理的・機能的に相互作用しており、過剰発現させることによりイネの酸化ストレス耐性が向上することを見出した。また本手法を膜脂質に拡張し、これまで解析が困難であった微量膜画分の脂質組成決定を容易に行うことができるようになった。以上の成果は、ストレス下における植物のスフィンゴ脂質代謝応答を分子レベルで初めて説明するものであり、今後の分子育種利用におけるスフィンゴ脂質代謝改変の有用性を期待させるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
確立したスフィンゴリピドミクスの手法が様々な植物種に適用可能で、ストレス応答性や代謝改変の評価を迅速かつ網羅的に行うことができるようになったことは非常に大きな成果である。さらにこれまで困難であった膜脂質や酵素代謝産物等の微量成分への適用が可能であることも確認しており、より詳細な脂質分子や代謝酵素の機能解析、さらには代謝改変による分子育種に向けた今後の発展研究の基盤となる技術を確立することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題では、低温応答や酸化ストレスに対するスフィンゴ脂質の代謝応答や機能の一端を明らかにした。また代謝酵素の改変により、植物のストレス耐性が強化できることを見出した。今後はより詳細な分子機構に迫ると共に、様々なストレス種に対する応答性及び耐性機能を解析することで、スフィンゴ脂質代謝改変の有用性を検証していく必要がある。また確立した分析手法は、植物はもちろん他の生物種にも適用可能である点で優れている。今後は対象をモデル植物に限らず実用作物等に拡大することで、より現実的なストレス耐性分子育種を目指したスフィンゴ脂質機能研究の展開が期待される。
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Research Products
(10 results)