2013 Fiscal Year Annual Research Report
発明と資本主義社会をめぐる思想史的研究--ガブリエル・タルドの理論を中心に
Project/Area Number |
12J10217
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
中倉 智徳 大阪府立大学, 人間社会学部, 特別研究員PD
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Keywords | ガブリエル・タルド / 発明 / 資本主義 / イノベーション / シカゴ学派 / 思想史 / 社会学史 |
Research Abstract |
本研究は、ガブリエル・タルドの理論を中心としながら、19世紀後半から20世紀初頭にかけての発明と資本主義社会に関する議論の系譜を思想史的に明らかにし、従来の対立を越えて、新たな社会分析の視角として確立させることを目的とするものであった。本年度の研究実施状況は以下のとおりである。 フランスでの草稿調査を進めていくなかで、初期草稿においても、発明に関する記述と、経済学への批判と、タルド自身が「差異の哲学」と呼ぶ議論とが混在しており、それぞれについて検討していく必要があることが明らかとなった。とくにタルドの発明論を理解するためには、ハーバート・スペンサーやイポリット・テーヌなどからの影響関係の検討が必要であるという成果が得られた。次年度以降も引き続き検討していきたい。 また前年度に引き続き経済学史およびシュンペーター研究を検討し、影響関係についての検討を行なった。イノベーションを概念史として検討しているBenoit Godinの研究を参考にして、シュンペーターへの系譜以外にも、タルドからシカゴ学派の社会学者のオグバーンやジルフィランらを代表とする発明の社会学の系譜が見られることを研究ノートにまとめた。かれらの発明の社会学は、発明が生じたことの社会的影響についての検討を行なうものであり、それが経済学、科学政策における基礎科学から商品化による実現というイノベーション・プロセスモデルの論理とちがった仕方で分析されていたことを指摘した。ゴダンが指摘するように、現在において「イノベーション」概念は規範的な含意をもってさまざまな場所で論じられている。その分析も継続してすすめていく必要がある。今後はタルドとシュンペーター両者の関係について、より詳細な分析を行なう予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イノベーション論の系譜を検討したことで、発明と資本主義社会をめぐる思想史の一端を描き出すことができた。また、発明の社会学とイノベーションの経済学というかたちで、イノベーション論への異なる分析視角を析出することができた。以上により、当初の目的が発展的に展開するかたちで研究目的の達成にむけて順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
発明論およびイノベーション論は、市場的でも競争的でも贈与的でも協同的でも個人的でもプロセス的でもありうる。経営的でも政策的でも運動的でも科学的でもありうる。発明論、イノベーション論は一枚岩ではなく、それらのあいだに緊張関係や対立、論点があることを明らかにしてきた。それらの布置を描き出し、タルドの発明論がどのようなものであるのかを改めて位置づけることができるのではないか。今後の検討によって明らかにしていきたい。
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