2012 Fiscal Year Annual Research Report
科学知の中のテロリズム概念-英米圏のテロリズム・スタディーズを事例として
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12J10260
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河村 賢 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ジョン・サール / ジョン・ロールズ / テロリズム / 概念分析 |
Research Abstract |
本研究は、アメリカのテロリズム研究において用いられている「テロリズム」概念が、2001年の9.11テロの前後でどのように変化したのかを解明することを目的としている。この目的を達成するために、当該研究者は、そのような科学的な概念の変容を記述するための社会学理論の探究と、その理論的立場に基づいた経験的研究の二つを主要な課題として推し進めた。 まず、理論研究に関しては、言語哲学者ジョン・サールの社会哲学を批判的に検討することで、社会的な概念(ジェンダー、精神病、テロリズムetc)といったものが、人々によって単に無から作り上げられるのではなく、そのような諸概念を用いて営まれる社会的実践のなかに埋め込まれているものであることを論じた。したがって、社会的な概念の意味の変容は、特定の利害関心に基づく人々の意図的操作のみによって生じるのではなく、そのような概念を用いて営まれる実践の変化とともに生じるのである。 このような理論的立場に基づき、9.11テロ前後に起こったと想定される、テロリズム・スタディーズにおけるテロリズム概念の変容を経験的に記述して行くにあたっても、概念と科学者たちの実践の結び付き方に着目するという方針から、特に9.11テロ直前に起こった「新しいテロリズム」論争期に限定して、テロリズム研究者たちの書いた論文やメモワールの収集と、それについてのテクストについての概念分析を行った。 その結果明らかになったのは、「新しいテロリズム」論の語彙は、当時の研究者たちの「宗教に動機づけられたテロリズムの到来」という事態の「予測」という活動を可能にしていたこと、特にそこに含まれる「宗教的動機」の「政治的動機」に対する基底性という概念的結び付きが、目標を共有せず、それゆえ政治的交渉の相手とならないような「敵」としてそのような「新しいテロリスト」を名指すことを可能にしたということであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の主要な研究課題は、「規則に従う行為」についての社会学理論的な研究と、その経験的事例への応用であるテロリズム研究の二つからなっている。いずれについても学術誌への論文掲載が決定するなど、研究の進捗状況は期待以上であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題として残されたのは、このようにして9.11以前に変容を遂げていた「テロリスト」の概念が、9.11テロが起こったことによって、アメリカ政府のいかなる対テロ政策を可能としていったかの過程を分析することである。ブッシュ政権の「対テロ政策」は明らかに「新しいテロリズム」論の描いた、交渉不可能で大量破壊兵器の使用を躊躇わないような存在としてのテロリストの概念を受け継いでいるのだが、そこには「国家支援テロリズム」の位置づけなどをめぐって明らかな差異が存在する。このような連続性と差異が9.11テロの後でいかにして生じて行ったのかを、科学者セクターと政府セクターの相互作用という観点から描き出すことが、本研究計画にとってのさらなる課題である。
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Research Products
(7 results)