2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J10496
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新井 才二 東京大学, 総合研究博物館, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 南コーカサス / アゼルバイジャン / 西アジア / 新石器時代 / 動物遺存体 / 骨角器 / 素材選択 |
Research Abstract |
平成24年度は研究計画にある南コーカサス地方新石器時代の骨角器制作と動物利用の関係を明らかにするために、7月から8月にかけてアゼルバイジャン共和国において発掘調査に従事し、その調査で出土した資料の分析を行った。現在まで分析を進めている、ギョイテペ遺跡に加え、今回はその近くのバッジ・エラムハンルテペ遺跡が発掘された。放射性炭素年代の測定結果から、本遺跡はギョイテペよりも古い段階に居住されたことが明らかとなった。出土している動物遺存体の比率を調べてみると、家畜ヒツジ/ヤギが全体の80%前後を占めており、家畜利用がすでに定着した社会であると判明した。これは、本地域におけるもっとも古い家畜利用の例である。興味深いことに下層ではほとんど存在しなかった家畜ウシが、上層に向かうにつれて上昇傾向を見せている。出土している動物種自体はギョイテペと共通しているが、その比率において大きく異なっているといえる。一方で、骨角器インダストリーもまたギョイテペと様相を大きく違えていた。錐などの道具の大半はヒツジ/ヤギの中手足骨を素材としており、他の部位はほとんど利用されていない。ギョイテペにおいてはそれらの部位に加えて、擁骨や脛骨も素材として大いに利用されていた為、この違いは両遺跡間の文化、或いは動物利用の違いを反映していると解釈された。また、ギョイテペでは多くの道具が直接或いは間接的な打ち割りによって制作されていたのに対し、バッジ・エラムハンルテペ出土の骨角器は多くが溝をつけることによって素材を剥離していた。製作技術面での違いは両遺跡間の文化に由来するものであるととらえられるが、それぞれの技術選択の理由は現在のところ不明である。いずれにせよ、骨角器はこれまでほとんど研究が行われてこなかったが、詳細な分析によって、過去の文化・動物利用の様相へのさらなる理解がもたらされることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的にあった、骨角器の製作技術の復元するという目的は、現在のところ停滞している。それは製作実験に使用する素材の獲得が問題となっている為である。にもかかわらず、研究がおおむね順調に進展している状況は、比較可能な資料が増えたことに由来している。特に、これまでの研究で扱ってきたギョイテペ遺跡に地理的にも時代的にも近接している、バッジ・エラムハンルテペの資料を獲得することができたことは非常に重要である。これら両遺跡出土資料の比較分析が、この地域の、ひいては西アジア新石器時代の骨角器と動物利用の関係を議論するうえで核となることは疑いない。
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Strategy for Future Research Activity |
遺跡の発掘調査の進展が研究の成果に大きく影響を与えるため、基本的には現在まで行っている分析を継続して行う。ただし、これまで以上に動物遺存体の分析に重点をおく。なぜなら、南コーカサス地方の新石器時代の動物利用に関する情報は、未だ断片的なものであり、全体を見通すまでに至ってはいない。当初の研究方針としては、骨角器と動物利用の関係をモデル化することを目的としていた為、動物利用の様相が解釈の点で重要になってくるはずであるとの判断からである。
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Research Products
(2 results)