2012 Fiscal Year Annual Research Report
嫌気環境における有機物の生産、分解・無機化過程に関する微生物生態系の解明
Project/Area Number |
12J10953
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
森 裕美 福井県立大学, 大学院・生物資源学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 嫌気環境 / 光合成硫黄細菌 / 光合成 / 化学合成 |
Research Abstract |
地球上には、富栄養化した湖沼や沿岸域、部分循環湖、微生物マット、底泥など至るところに酸素のない嫌気環境が存在することから、嫌気環境における物質循環は、地球規模での物質循環を考えるにあたり無視できないものであると考えられる。しかしながら、水圏の嫌気環境における物質循環は、分子生物学的手法によって検出される微生物群と分離株の生理学的特性から推挙しているレベルにとどまっており、環境中での各微生物の活性や機能に関する研究はあまり進んでいない。 本研究では、嫌気環境における炭素循環に着目し、部分循環湖である水月湖の嫌気環境における有機物の生成、分解・無機化に関わる微生物群集を調査し、水月湖における嫌気的炭素循環を理解することを目的とした。当該年度では、炭素安定同位体を用いた一次生産に寄与する微生物群集組成の調査と、炭素放射性同位体を用いた炭酸同化速度の測定を行った。 水月湖の嫌気層上部の酸化還元境界層で炭酸固定を行っている細菌を調査した結果、光合成硫黄細菌であるChlorobi門に属する細菌が実際に炭酸固定を行っていることが示された。また、Thiomicrospira属の硫黄酸化細菌やDesulfocapsa属の硫黄不均化細菌、Thioreductor属の硫黄還元細菌などの化学合成細菌も炭酸固定を行っていることが示された。酸化還元境界層の炭酸固定活性を測定したところ、好気層の炭酸固定活性の30-40%を示し、その約80%程度が化学合成によって行われていることが明らかとなった。これらの結果により、微弱な光しか到達しない水月湖の酸化還元境界層では、光合成硫黄細菌による光合成のみならず、化学合成独立栄養嫌気性細菌による炭酸固定も重要な役割を果たしていることが、本研究によって初めて明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
嫌気環境における炭素循環を理解することを目的とした本研究の計画どおり、当該年度は有機物の生成に関する微生物組成とその活性について明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの本研究によって、水月湖の嫌気環境では、光合成硫黄細菌や化学合成細菌が有機物を生成していることが示された。今後は、この生成された有機物を分解・無機化する細菌の組成を明らかにする。試水に安定同位体炭素でラベルされた重炭酸を添加し、長期間にわたって培養し、一次生産者によって生成された有機物を利用する嫌気性従属栄養細菌を明らかにする。これらの結果を総合して、嫌気環境における炭素循環について考察する。
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Research Products
(1 results)