2012 Fiscal Year Annual Research Report
ミツバチを用いた感染症モデル系の確立及び「社会的免疫」の分子基盤の解明
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12J11042
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石井 健一 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 社会性昆虫 / 感染症 / 細菌 / 自然免疫系 |
Research Abstract |
本研究では、ミツバチにおける(1)ヒトの病原体の感染及び抗生物質による治療の評価系の確立、(2)巣内での役割の違いに着目した免疫システムの理解、並びに(3)個々の免疫応答が集団内行動の変化を誘導する分子機構の解明を目指す。 本年度では、(1)のミツバチを用いたヒト病原体の感染モデルの確立を行った。また、本研究で用いる病原体の一つであるセラチア菌について、昆虫モデルを用いた病原性発揮機構の解明を行った。さらに、本研究の(2)で解析する免疫パラメータの一つである昆虫サイトカインについて、自然免疫活性化機構の解明を進めた。 (1)について、細菌やウイルス等の病原性発現機構を解明する上で、モデル動物を用いた個体感染実験が必要となる。そこで私は、・ミツバチを用いた病原体感染モデルの確立を試みた。ヒトに対して感染症を引き起こす病原性細菌である黄色ブドウ球菌、セラチア菌、腸管出血性大腸菌、緑膿菌、及びサルモネラ菌をミツバチに血液内感染させたところ、ハチ個体は殺傷された。また、これらの病原性細菌の血液内感染によりハチが感染死するのにかかる時間は、温度が高いほど短かった。 さらに、巣内の育児蜂、巣外の採餌蜂、並びに雄鉢をそれぞれ分離し、黄色ブドウ球菌を感染させたところ、巣内蜂は採餌蜂及び雄鉢と比べて強い抵抗性を示すことが判った。 (1)に関連して、昆虫に対して強い病原性を示すセラチア菌の病原性発揮機構を解析した。カイコやミツバチ等の昆虫には、哺乳動物のマクロファージに相当し、種々の自然免疫応答に寄与する血球細胞が存在する。私は、セラチア菌がカイコの血球細胞に対してアポトーシスを誘導して殺傷し、カイコの自然免疫応答を抑制することにより病原性を発揮することを明らかにした。本研究の成果は国際学術雑誌(Journal of Biological Chemistry)に掲載された。 (2)に関連して、昆虫の自然免疫応答の制御に与る昆虫サイトカインについて、カイコをモデル動物として自然免疫系を制御する機構を明らかにした。私は、昆虫サイトカインを投与したカイコにおける遺伝子発現変動の網羅的解析により、一酸化窒素合成酵素が発現誘導されることを見出した。また、このサイトカインによる種々の自然免疫応答の活性化反応に、一酸化窒素が必要であることが判明した。本成果は国際学術雑誌(Developmental & Comparative Immunology)に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで社会性動物において、個体感染と集団での行動変化との関係について分子レベルで解析された例は殆ど無い。本課題を検討する上で、社会性動物を用いた感染モデル系の確立が必要となる。本年度私は、ヒトに対して感染症を引き起こす病原性細菌をミツバチに血液内または経口投与することにより個体が殺傷されることを見出し、ミツバチを用いたヒト病原性細菌の感染モデル系を確立することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、確立したミツバチ感染モデル系を利用して、細菌感染による社会性行動の変化が起こるかを検討する。また、病原体をミツバチへ投与し、個体内での免疫応答に伴い産生量が変化するフェロモン等の分子群について分析する。さらに、病原体を投与したミツバチの抽出液を非投与群のハチに塗布し、他のハチによる攻撃行動を誘発する免疫物質について、被攻撃頻度を指標として生化学的に精製する。これらの課題を通して、社会性動物における感染と行動変化の関係について、「社会的免疫」の観点から解明することを目指す。
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Research Products
(6 results)