2013 Fiscal Year Annual Research Report
ミツバチを用いた感染症モデル系の確立及び「社会的免疫」の分子基盤の解明
Project/Area Number |
12J11042
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石井 健一 東京大学, 大学員理学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 社会性昆虫 / 感染症 / 細菌 / 自然免疫 / プロテアーゼ / 抗生物質 |
Research Abstract |
本年度では、(1)ミツバチを用いた病原体の感染モデル系を確立した。また、(2)本研究で用いる病原体の一つであるセラチア菌について、昆虫モデルを用いた病原性発揮機構の解明を進めた。 (1)ヒトに対して感染症を起こす種々の病原性細菌をミツバチに血液内感染させたところ、ハチ個体は殺傷された。一方、複数の病原性遺伝子を破壊した黄色ブドウ球菌では、ハチに対する殺傷能が低下していた。巣内で役割の異なるハチ間で細菌抵抗性に差がみられた。さらに、抗生物質はハチの細菌感染死を治療した。以上より、ミツバチ細菌感染モデルが確立され、それが病原性因子の働き、および抗生物質の体内動態を反映したin vivo評価系として利用できることが示唆された。本成果はPloS Oneに掲載された。 (2)昆虫の血液中には、哺乳動物のマクロファージに相当し、細胞性免疫に与る血球細胞が存在する。私は、昆虫病原菌であるセラチア菌をカイコに血液内注射すると、血液中の遊離血球細胞の濃度が上昇する現象を見出し、「セラチア菌は宿主血球細胞の接着を阻害して病原性を発揮する」という仮説を立てた。カイコ血球細胞の濃度を上昇させる生物活性を指標として、活性因子を生化学的に精製したところ、Serralysinメタロプロテアーゼが同定された。リコンビナントSerralysinタンパク質は、カイコの血液中で遊離血球細胞数を増加させる活性を示した。また、Serralysinをコードする遺伝子serを破壊したセラチア菌では、上記の活性が低下していた。さらに、erralysinはカイコ血球細胞及びマウス腹腔内マクロファージの接着因子を分解し、接着能ならびに細菌貪食能を低下させることが示された。セラチア菌のser遺伝子破壊株は親株と比べ、カイコおよびマウスを殺傷する能力が低下していた。以上の結果より、セラチア菌のSerralysinが、宿主血球細胞の表面分子を分解することにより、細胞性免疫応答を抑制し、個体殺傷に寄与することが示唆された。本成果はJournal of Biological Chemistryに掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで個体感染と集団での行動変化との関係について分子レベルで解析された例は無く、両者の関係には不明な点が多い。本課題を検証する第一歩として、社会性昆虫を用いた感染モデルを確立する必要がある。本年度私は、ヒトに対して感染症を起こす病原性細菌、ならびにそれらの病原性遺伝子の変異体を用いて、ミツバチにおける病原性の強弱を評価できることを見出した。また、昆虫モデルを用いて、細菌の新しい病原性発現機構を明らかにし、これらの成果を国際学術誌に掲載するに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ミツバチ感染モデル系を利用して、感染による社会性行動の変化について検討する。また、ミツバチと同様に社会性を示す昆虫(アリ)を用いて、社会生行動の分子基盤について分子レベルでの理解を深める。さらに、宿主生物体内における細菌の病原性遺伝子の発現メカニズムについて、網羅的な解析を進める。
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Research Products
(8 results)