2013 Fiscal Year Annual Research Report
モロッコ農村部における出産をめぐるイメージ・医療知識の変容と身体化
Project/Area Number |
12J40078
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井家 晴子 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(RPD)
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Keywords | モロッコ / 妊娠 / 出産 / リスク / イスラーム / 医療人類学 / 帝王切開 / V-bac |
Research Abstract |
昨年度の前半期は、これまでモロッコで得てきたデータの整理を改めて行った。特に、村の女性たちが身体を語る際にしばしば身体の器官を擬人化し語ること、中でも「子宮」を自分の意志と無関係に動く臓器として認識していること、また胎児を自己の人格と一体化して語る場合と別人格として語る場合があることに注目して、シュルーフ社会における身体と自己のあり方について考察をすすめ、原稿執筆をすすめた(2014年度共著にて出版予定)。後半期は、先進国の近代医療で極めて高いリスクを有すると見なされている帝王切開経験のある妊産婦当事者が、どのようにリスクを捉え対応しているのか調査を行った。先進国では、帝王切開後の分娩はリスクが高いとして、帝王切開経験者に対しては、反復帝王切開を勧める医療従事者が一般化している。一方で、産婦側には帝王切開後の経膣分娩(Vbac)を希望する者も少ないながらも存在する現状がある。しかしながら、これまでの人類学の先行研究を概観すると、帝王切開を施術された妊産婦当事者に対する人類学的研究はほとんど見当たらないばかりか、vbacに関する妊産婦当事者に関する研究は皆無の状況である。ここでは、具体的には、タイ、バンコク市の私立病院で帝王切開を行った妊婦、京都市で帝王切開を行った妊婦がいかにして帝王切開の経験を乗り越えたのか聞き取り調査した。彼女たちは、日本では現在、子宮破裂のリスクが非常に高いとしてほとんどの施設で避けられる傾向のあるVbacを選択し、医療施設を探して分娩に挑んだ。Vbacに関して少ないながらも存在する医学的な先行研究は、医師たちが施設ごとの実施状況と成功した状況について報告発表する体裁をとるものばかりであった。一方、人類学的には皆無であったため、実際にvbacを試みる妊産婦当事者がどのようにvbacを選択したのか、そこでの彼女たちの体験に関する調査は全く手付かずであった。本研究で、vbacに関するインタビューを実施した3名の産婦のうち二名はvbacに成功し、一名は失敗した。ここでは、彼女たちの語りの分析を通して、帝王切開とvbacをめぐる術前術後の近代医療側の対応がいかに異なるっているか考察を深めることによって、科学的根拠に基づいて施術するとされている先進国の近代医療側の対応がいかに古い因習に基づいたものであるか、科学的根拠となる症例が古く情報がアップデートされていないままであることが明らかになった。また、vbacという妊婦の心情に沿った技術を提供しているものの、実際帝王切開に切り替わった産婦の心情に配慮がなされていないことが判明した。今後の自身の研究課題として、更に施設間の医療行為の比較、受け手となる産婦の心情の比較を推し進めるだけでなく、医療関係者には、施設を超えて横のつながりでの研究提携・連携を呼びかけていく必要があることを強く考えさせられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
妊娠初期、中期の体調不良により、思うように研究を進めることが出来なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年、3月出産予定のため、来年度は出産・育児休暇をとる。だが、その間も可能な限り研究活動を行ってゆきたい。例えば、子連れで参加可能な助産院などで開かれる出産の振り返りや、帝王切開経験者の集会へ参加することによって、現代の日本社会における医療受け手側の近代医学的ハイリスク概念に対する捉え方、対応を参与観察してゆきたい。
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Research Products
(1 results)