2013 Fiscal Year Annual Research Report
日本漢方における鬱治療の近代性:東アジア医学交流史の視点から
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12J40109
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
村田 慶子 (大道寺 慶子) 慶應義塾大学, 経済学部, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 『傷寒論』 / 蘇州国医医院 / 漢方復興運動 / 病院 / 民国期中国 / 実験医学 |
Research Abstract |
研究の全体像としては、精神疾患の治療を含めた漢方の医学理論と治療法が、近世から近代にかけて大きく変化した点を分析し、それが同時代の中国医学に与えた影響を検証した。より具体的には1. 明治以降、漢方を近代化しようとする動きの中で、医学古典『傷寒論』(2世紀CE)がどのように再解釈されたかを社会の動きと連関させ、2. 昭和前期の漢方復興運動が、民国期の中国医学改革派によって開設された病院における臨床実践に与えた影響を検証した。 1. については、明治以降の漢方界で『傷寒論』が重視された背景には、臨床での経験と観察(「親試実験」)を基に『傷寒論』を独自に解釈し、陰陽五行の否定や病の可視化といった医論を提唱した、江戸時代の古方派の医師・吉益東洞の存在が大きい。東洞の『傷寒論』観を継承し改変することにより、昭和前期の漢方は、中国や韓国との差異化を目指し、さらには漢方の「実験医学」性が証明されると強調した。 2. については、昭和の漢方界と中国の医家との提携・交流に着目する。民国期の中国医学は、西洋医学からの批判に対抗する形で、医論や組織を整備し近代化を志向していたが、それを達成する指標の一つが、病院の設立であった。蘇州国医医院(1939―1941)は、日本の傀儡政権である中華民国維新政府統治下の蘇州で開設された、中国医学の大型病院である。当該病院の運営形態および『傷寒論』を応用した治療記録から、日本漢方界の影響を見出すことができる。こうした蘇州国医医院における臨床テクニックの再編に、科学医学との競合、反帝国反封建というイデオロギーの抗争、同業者集団としての日本漢方界との意識の共有といった複数の力学を読み取り、蘇州国医医院を欧米、日本、中国の医療制度を取り入れたグローバルな医学近代化の過程に位置づけることを目指した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本漢方における『傷寒論』重視を、江戸時代の医療の商業化や医療サービスの一般化といった現象に結びつけ、それが明治以降の日本漢方、さらには民国期の中国医学において、修正されつつ継承された過程を検証することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
蘇州国医医院における、入院・外来患者の治療の記録を分析することをとおして(1)病院の社会的性格および(2)日本漢方の『傷寒論』医学が、どのように中国医学の実践で応用されていたかを明らかにする。
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Research Products
(5 results)