2012 Fiscal Year Annual Research Report
飼育実験手法を用いた硫化水素およびpHの浮遊性有孔虫への生物的影響の評価
Project/Area Number |
12J40143
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒柳 あずみ 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 浮遊性有孔虫 / 有孔虫飼育実験 / 溶存酸素濃度 / 硫化水素 |
Research Abstract |
本研究では,海洋の炭素循環の重要な担い手である浮遊性有孔虫の,過去における高い種絶滅率および種分化率の背景となる海洋環境を明らかにするため,溶存酸素濃度・硫化水素・pHが浮遊性有孔虫に与える生物的影響について,生息環境をコントロール可能な飼育実験手法を用いて検証する.さらに,当時のみでなく近未来に懸念されている,二酸化炭素濃度上昇に伴う海洋の酸性化や,温暖化に伴う貧酸素化についても,浮遊性有孔虫の飼育実験結果を基に,炭酸塩生産の将来的な影響について解明する.そして,これらの飼育実験の結果を基に,過去から将来までを通じた,海洋の酸素状態・pH変化に起因する,海洋表層の炭酸塩生産を担う浮遊性有孔虫への影響評価を行うことを最終的な目的とする.研究の1年目である本年度では技術的な問題からこれまで実施されていなかった浮遊性有孔虫の溶存酸素コントロール飼育実験を世界で初めて試みた結果をまとめ,海水中の溶存酸素が浮遊性有孔虫にもたらす影響について検証した.溶存酸素実験は,アメリカでの飼育実験プロジェクトの一部として実施され,その結果,浮遊性有孔虫がこれまでの予想をはるかに上回る貧酸素耐性を示すことが明らかになった.そして,生息環境が少なくともdysoxicのレベルにおいては、溶存酸素濃度が白亜紀の海洋無酸素事変における浮遊性有孔虫の直接的な絶滅要因にはならないと考えられ,今後は硫化水素による影響の解明が求められることが提示された.また,これらの結果を基に,複数の硫化水素飼育実験施設を見学し,それぞれの飼育実施者と浮遊性有孔虫に応用する際の問題点の議論を行い,実際に飼育する場合の安全性の確保および飼育環境制御の方法について検討した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の1年目である本年は硫化水素実験の前段階として必須である,溶存酸素飼育実験の結果の取りまとめ,および硫化水素実験設備を用いた飼育実験の基本技術の吸収に努めた.特に,これまでの飼育技術の課題をクリアして試みた溶存酸素制御の飼育実験は世界で初の試みであり,その結果,浮遊性有孔虫が予想をはるかに上回る貧酸素耐性を示し,生息環境が少なくともdysoxicのレベルにおいては、溶存酸素濃度が浮遊性有孔虫の直接的な絶滅要因にはならないことを明らかにし,また改めて硫化水素実験の必要性を指摘した.この結果は国際学術雑誌に投稿され,現在改訂中である.
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Strategy for Future Research Activity |
研究の2年目では,19年目で習得した硫化水素飼育技術を実際の飼育現場に応用し,更なる安全性の確保を目指した技術の開発を行う.基本的には,申請者が以前実施した溶存酸素濃度を変化させる実験技術を応用する予定であるが、より確実な安全性の確保のために,大気海洋研究所の強制排気システムを備えた特殊環境実験室で,安全性を確認するための予備実験を行う.大気海洋研究所では,本浮遊性有孔虫実験に備え,すでに1年目の数ヶ月間,大型底棲有孔虫を用いて簡単な温度実験を行っており,その際には特に問題は見られなかった.
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Research Products
(3 results)