2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J40156
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
酒井 晶子 新潟大学, 医歯学系, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2013-04-26 – 2016-03-31
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Keywords | 臨界期 / 神経可塑性 / ChIP-seq / クロマチン / 転写制御 / 抑制性ニューロン / ホメオタンパク質 / Otx2 |
Outline of Annual Research Achievements |
幼年期のほ乳類の脳には、環境から受けた刺激や経験に応じて神経回路が活発に再構築される(可塑性が高まる)時期がある。これは「臨界期」と呼ばれ、生涯の中で生後の一時期にしか現れない。自閉症のモデルマウスでは臨界期の異常が示唆されているように、臨界期に神経回路網が可塑性を持つことは脳の機能発達に重要である。本研究では、マウス大脳皮質視覚野の発達をモデルに臨界期の制御機構を理解することを目的として、初めて臨界期に必須な転写因子として発見されたホメオタンパク質Otx2の下流のターゲットを探索した。 本年度はまず、Otx2が結合するゲノム領域をChIP-seq法を用いて網羅的に同定することを試みた。Otx2タンパク質は大脳皮質の中でもPV細胞と呼ばれる特定の抑制性介在ニューロンに限局するため、存在量が非常に少なく、ChIP-seqで特異的なシグナルを得るのが困難であった。そこで2種類の抗体で共通して見られるピークのみに着目することで偽陽性を排除し、Otx2結合部位を持つ遺伝子を明らかにした。これらの中には転写制御に関わる因子、神経細胞の機能に関わる因子(イオンチャネル、シナプス伝達因子)、構造変化に関わる因子(アクチン制御因子、細胞接着因子)等が多く見られた。これらの結果より、Otx2は転写カスケード、神経細胞機能、構造に関わる複数の因子の転写を直接制御することにより、臨界期を引き起こすことが示唆された。更に、Otx2のターゲットの中にはPV細胞の成熟に必要であることが示唆されている複数の因子も含まれていた。これらの結果はOtx2がPV細胞の成熟を促進することで臨界期の開始に導くというこれまでの知見を強く支持するだけでなく、本解析により同定されたOtx2のターゲットの中には、PV細胞成熟の機能を持つ新たな因子が含まれる可能性をも示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Otx2は抑制性ニューロンにのみ局在するため、ChIP-seqで特異的なシグナルを得るためには高感度でかつ特異性の高い抗体の存在が必須である。本ChIP-seq解析では、当研究室で既に特異性が確認されている市販の抗体に加え、Otx2に対するポリクローナル抗体を新たに4種類作成し、特異性およびChIP効率の評価を行った。そのための時間が必要となったが、結果的に信頼性の高いデータを得るに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後更に、Otx2に依存して発現量が変化する遺伝子を同定するために、野生型マウスの大脳皮質にOtx2を過剰に導入した場合、および、Otx2のノックアウトマウスについて、網羅的発現解析(RNA-seq)を行う。これらの解析と、ChIP-seqで同定されたOtx2のターゲットを比較することにより、臨界期に直接Otx2により発現制御を受ける遺伝子を明らかにできると期待される。
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Research Products
(1 results)