Research Abstract |
【D-アミノ酸オキシダーゼの反応制御機構】 基質および,フラビンをめぐる水素結合は,フラビン依存性酵素の反応を制御するもっとも重要な因子の一つである.われわれが結晶構造解析によって解明したD-アミノ酸オキシダーゼ(DAO)の三次構造に基づいて,基質とタンパク質の間の水素結合,フラビンとタンパク質の間の水素結合の反応制御に対する役割を調べる目的で,部位特異的変異によってDAO変異体を作成した.Gly313の主鎖カルボニルは基質アミノ基と水素結合している.この水素結合に影響を与えるために,Gly313Ala変異体を作成し,その酵素化学的性質を調べ,野生型を比較したところ,この水素結合は,基質認識と基質特異性に重要な役割を果たすことが判明した.Thr317の側鎖ヒドロキシル基はフラビンのC(2)=0と水素結合している.この水素結合を切るために,Thr317Ala変異体を作成し,種々の分光学的性質,酵素化学的性質を調べた結果,この水素結合は,DAO触媒サイクルの必須の中間体である「紫色中間体」を安定化する効果をもつことが明らかとなった. 【アシルCoAオキシダーゼの三次構造解明】 ペルオキシソームの脂肪酸β酸化系の初発段階,かつ律速段階を触媒するラット肝臓アシルCoAオキシダーゼ(ACO)のX線結晶構造解析を完成させた.全体構造は,同一サブユニットからなる二量体で,各サブユニットは,3個のドメイン(N末端アルファドメイン,βドメイン,C末端αドメイン)からなっている.ACOは,ミトコンドリアのβ酸化系の初発/律速段階を触媒するアシルCoAデヒドロゲナーゼ(ACD)と同じスーパーファミリーに属するが,ACDとACOでは,還元型酵素の酸素に対する反応が前者では促進されているのに対し,後者では抑制されている.ACOの活性部位間隙は,ACDのそれに比較して大きく,ACOがより長いアシル鎖のアシルCoAに対応できること,かつ活性部位への酸素の接近が容易であることを示し,ACOの基質特異性,および酸素との反応をよく説明している.ACDが電子伝達フラビンタンパク質(ETF)に電子を供与する際に,ACD-ETF複合体を形成することがわかっている.ところで,ACOの三次構造によれば,ACOのC末端αヘリックスが,ETFとの相互作用部位を覆い,ACO-EFT複合体形成を困難にさせていることが判明した.このように,ACO, ACDの構造の比較から,酸素に対する反応の制御機構の一端を理解することができた.
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