Research Abstract |
米谷は,Dブレーンの生成消滅を取り扱う一般的な枠組みを構築するため,Dブレーンの個数が変化できるHilbert空間の定式化を目指す研究を進めた.これは,低エネルギー近似では,super U(n) Yang-Millsゲージ場の量子論をさらに「第2量子化」した一般化された場の理論を構築することに相当する全く新しい可能性であり,その原理を見つけるには,様々な具体例について試行的な研究が必要である.本年度は,1/2BPS状態に制限した範囲で,そうした理論の可能性を調べ,一つのToy Theoryを構成することに成功した.D-braneは拡張されたパウリ排他原理を満たす一般化フェルミオン場で表されること,その構造は米谷が以前から弦理論の定性的振る舞いを特徴づける普遍的性質として提案している時空不確定性と調和していること,などの興味深い結果を得た.風間は,超弦理論の超共変的量子化を実現する新しい方法であるピュアスピノル(PS)形式の基礎についての研究を続行し,これまで未知であった基本的作用およびその対称性の構造を明らかにし、第一原理からPS形式を導出することに成功した.基本的アイデアはグリーン・シュワルツ形式の作用において、スピノル場の数を二倍にすると同時に、それによって生じた余分な自由度をうち消すための新たな局所的フェルミ対称性を導入するものである.このアイデアは11次元の超対称粒子に対しても有効であり,さらに長年の懸案である11次元超膜理論の共変的量子化の問題に適用する研究をおこない,古典的レベルで系のダイナミックスを支配する拘束代数を具体的に導出した。加藤は,前年度に引き続き格子上の超対称ゲージ理論の構築へ向けて,(1)市松格子の方法にもとづく定式化において、fermi的対称性から連続の超対称性の部分を分離する目的のため、staggered fermionの時空対称性をSO(2D)Clifford代数の立場から系統的に同定する方法を開発した.(2)非可換幾何の方法に触発されて、行列の自由度を利用する格子理論の定式化を超対称量子力学を例にとって試み、差分のLeibniz ruleが自動的にみたされる方法を開発した.加藤はまた,弦の場の理論のゲージ固定の問題にアプローチするための予備的考察として,弦理論の物理的状態の表現におけるヌル状態の不定性に対する代表元の選び方を様々な場合に解析した.小竹は,長距離相互作用を持ち可積分な多体系であるCalogero-Sutherland-Moser模型の変形版であるRuijsenaars-Schneider-van Diejen(RSvD)模型について考察を行った.古典ルート系に付随した,有理関数または三角関数ポテンシャルを持つCSM模型には,「多体古典論の平衡点と1体量子論の固有関数が同じ直交多項式で記述される」という興味深い性質があるが,RSvD模型に対してもこの性質が成り立つことを確立した.
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