Research Abstract |
我々は,JunやFos, Mafといった癌関連転写活性化因子と拮抗し転写抑制を行うBach1およびBach2に着目し,TPA応答配列(TRE),Maf結合配列(MARE),酸化ストレス応答配列(ARE)などを介する遺伝子応答の生理的意義,およびその脱制御を理解することを目指した。 1.Bach1はストレス防御に重要なヘムオキシゲナーゼ1の発現を制御する。そこで,Bach1ノックアウトマウスを用いて酸素ストレスや低酸素が関与する病態モデル(大動脈カフ巻き障害)を検討した。また,Bach1ノックアウトマウスより胎児線維芽細胞(MEF)と血管平滑筋(SMC)をそれぞれ調製し,その増殖能や機能などを検討した。そしてBach1は,線維芽細胞や血管平滑筋細胞の増殖に関与し,その欠損マウスでは動脈硬化が軽減することを見いだした。2.野性型およびBach2ノックアウトマウスより得た脾臓Bリンパ球をLPSで刺激し形質細胞を誘導し,培地中に分泌される抗体価を測定した。得られた結果は,Bach2が抗体産生細胞の分化を制御すること,クラススイッチDNA組み換えや体細胞突然変異に必須のAID遺伝子がBach2の下流に位置することを示した。 Bach1とBach2は,いずれもMaf関連蛋白質群の中の小Maf因子群とヘテロ二量体を形成し,MAREに結合し,転写を抑制する。本年度の研究から,Bach1は酸化ストレス関連病態に深く関連し,またMEFやSMCの増殖にも関わること,一方,Bach2は液性免疫応答に関わることが理解された。したがって,MAREは酸化ストレス防御と免疫という,一見関係のない,しかし高等生物にとって極めて重要な生体防御系の発現調節に関わると言える。AP-1やMafを中心とするシステムの脱制御がいかにして発癌へ至るのか,課題は多く残っている。
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