Research Abstract |
本研究では,情報処理機器の設置密度の高い情報作業環境の実態に即した,特にプリンターからの発塵粒子を対象とした新たなIAQ評価手法を提案することを目的としている。本年度は,発塵部位が比較的限定できるインクジェットプリンタを対象にして,JISB9926に準拠した発塵量測定装置を組み立て,その発塵特性を調べた。まず,新規に購入したSMPS(スキャニングモビリティパーティクルサイザー)による発塵粒子の粒径分布およびCNC(凝縮核計数器)による総発塵量を測定した。その結果,同様の印刷を行わせた場合,紙1枚あたりの発塵量は,ブラック(黒)が他の原色(シアン(青)>マゼンタ(赤)>イエロー(黄))よりも2倍以上大きいことがわかった。また,単位時間あたりの発塵量でも,インクノズルの個数が多い黒が最も発塵量が多かった。次に,粒径分布では,いずれの色の粒子の平均粒径もO.1μm以下と,非常に細かい粒子が構成されていた。これは,これらのインクが粒径の大きい顔料系でなく,染料系であるためと考えられる。また,色別に見ると,ブラックでは平均粒径が0.065μm程度なのに対し,他の原色では0.03μm以下と非常に小さいことがわかった。実際に,原液の固形分の重量濃度を測定したところ,黒が他の色に比べて高かった。以上のことから,同じ印刷面積でも,ブラックの印刷の際に生成する粒子の発塵量が多く,平均粒径も大きい理由として,インク原液が低粘度で,固形分を多く含むためと考えられる。 次に,生成した粒子をインパクタで捕集し,電子顕微鏡による形状観察およびEDX(エネルギー分散型X線分析装置)による元素分析を行った。その結果,いずれの粒子もほぼ球形であり,シアンとマゼンタの粒子にはCr, Fe等の重金属が検出された。特に,Crに関しては着色剤である染料には含まれていないことから,他の添加剤由来と考えられる。このように,0.1μm前後の粒子は人間の呼吸器官に容易に取り込まれやすく,さらにこれらの粒子中には重金属等の有害成分も含まれることから,プリンタからの発塵粒子もIAQの重要な評価対象になることが示唆された。
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