2002 Fiscal Year Annual Research Report
ナラ・カシ類集団枯死被害における萎凋症状発現機構ならびに宿主の防御機構の解明
Project/Area Number |
13460064
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山田 利博 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助教授 (30332571)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 進一郎 三重大学, 生物資源学部, 助教授 (90092139)
鈴木 和夫 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 教授 (80162931)
坂上 大翼 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助手 (90313080)
|
Keywords | ナラ・カシ類 / 集団枯損 / カシノナガキクイムシ / Raffaelea quercivora / 蒸散 / 通水阻害 / 防御反応 / 感受性 |
Research Abstract |
萎凋枯死機構を明らかにするために、本被害の病原菌Raffaelea quercivoraをミズナラ苗木に接種した。生残した菌接種苗木、特に蛍光量子収量Fv/Fmが一時的な低下を示した苗木では接種部の通道性が健全木の数十分の一と著しく低下したが、接種部より上部や根の通導性には変化がみられなかった。萎凋しはじめた苗木においては接種部の通導性の低下はさらに著しかったが、他の部位では変化がなかった。このことは通道阻害は接種部近辺のみで生じることを示す。萎凋症状を示す苗木は接種後の早い時期に蒸散が低下したが、Fv/Fmの低下は萎凋症状発現の直前であった。また、軸方向の材変色域や菌の進展の範囲と一時的なFv/Fmの低下や萎凋症状の発現との間には関連がみられなかったことから、菌や材変色の側方への広がりが枯死を決定する因子として重要と考えられた。 防御反応に関しては、被害木での解剖観察から、菌の蔓延部である材変色の境界が明瞭でない部分では防御組織の形成が不十分であることが分った。また、苗木での接種試験では、これまで成木の幹や枝では観察されなかったリグニンに対する染色性が失われた組織がリグニン様物質集積部より感染部側に認められた。 感受性および抵抗性樹種の反応特性解明では、Raffaelea quercivoraに対するブナ科樹木の防御反応の差異を明らかにする目的で、コナラ、ミズナラ、アラカシ、スダジイの苗木に接種試験を行い、組織化学的な観察を行った。いずれの樹種も、変色部と非変色部の境界部にはリグニン様物質とフェノール類が観察され、それらが防御反応に関与していることが示唆された。しかし、感受性の異なる4樹種において、それら防御反応にはほとんど差異がなかったことから、樹種間の感受性の差異には他の要因が関与していると考えられた。
|
Research Products
(23 results)
-
[Publications] 木村匡子: "Raffaelea quercivora菌株間の形態学的特徴"中部森林研究. 51(印刷中). (2003)
-
[Publications] Ito, S.: "Pathogenicity of Raffaelea quercivora associated with mass mortality of fagaceous trees in Japan"8th International Congress of Plant Pathology. 2. 155 (2003)
-
[Publications] Yamada, T.: "Defence responses of oak sapwood in relation to wilt of oak trees in Japan"8th International Congress of Plant Pathology. 2. 155 (2003)
-
[Publications] 伊藤進一郎: "現在問題となっているブナ科樹木の衰退、枯死"森林科学. 35. 4-9 (2002)
-
[Publications] 伊藤進一郎: "ナラ枯れ被害に関連する菌類と枯死機構"森林科学. 35. 35-40 (2002)
-
[Publications] 伊藤進一郎: "ナラ類、シイ・カシ類の枯死被害に関連する菌類と枯死機構"山林. 1422. 54-60 (2002)
-
[Publications] Kubono, T.: "Raffaelea quercivora sp. nov. associated with mass mortality of Japanese oak, and the ambrosia beetle (Platypus quercivorus)"Mycoscience. 43. 255-260 (2002)
-
[Publications] 奥田章子: "ナラ類集団枯損被害林分におけるコナラ・ミズナラ根系について-カシノナガキクイムシの加害程度と外生菌根菌の形成状況との関係-"中部森林研究. 50. 83-86 (2002)
-
[Publications] 伊藤進一郎: "カシノナガキクイムシの形態の地域間比較"中部森林研究. 50. 87-88 (2002)
-
[Publications] 梶村 恒: "人工飼料を利用したカシノナガキクイムシの飼育の試み"中部森林研究. 50. 89-90 (2002)
-
[Publications] 村田政穂: "Raffaelea属菌に対するブナ科6樹種の感受性の差異"中部森林研究. 50. 107-108 (2002)
-
[Publications] 中根阿紗子: "コナラに対するRaffaelea属菌の接種法の検討"中部森林研究. 50. 109-112 (2002)
-
[Publications] 村田政穂: "Raffaelea quercivora接種に対するブナ科樹木の動態"樹木医学会大会講演要旨集. 7. 33 (2002)
-
[Publications] 山田利博: "Raffaelea quercivoraを接種したミズナラ苗の部位による通水性の差異"樹木医学会大会講演要旨集. 7. 13 (2002)
-
[Publications] 大和万里子: "ナラ菌接種ミズナラ苗の水分通道変化"樹木医学会大会講演要旨集. 7. 14 (2002)
-
[Publications] 小穴久仁: "カシノナガキクイムシの穿孔による壊死変色部と健全材との成分の比較"日本林学会中部支部会大会講演要旨集. 51. 30 (2002)
-
[Publications] 伊藤進一郎: "ナラ枯れ被害の発生とナラ類の水分生理状態"日本林学会中部支部会大会講演要旨集. 51. 31 (2002)
-
[Publications] 笠井美和: "カシノナガキクイムシに被害を受けたミズナラの抽出成分に関する研究-Raffaelea quercivoraのタンナーゼによる抽出成分の変化-"日本林学会中部支部会大会講演要旨集. 51. 32 (2002)
-
[Publications] 村田政穂: "Raffaelea quercivora接種後のブナ科樹木の組織化学的観察"日本林学会中部支部会大会講演要旨集. 51. 32 (2002)
-
[Publications] 伊藤進一郎: "ブナ科樹木の集団枯死に関与するRaffaelea quercivoraの病原性"日本植物病理学会関西部会講演要旨集. 14年度. 29 (2002)
-
[Publications] Yamada, T.: "Mechanism of wilting in oak mortality in Japan caused by Raffaelea quercivora"International Congress of Mycology. Book of Abstracts. 276 (2002)
-
[Publications] 奥田章子: "ナラ類集団枯損被害に対する地下部からのアプローチ"日本林学会大会学術講演集. 113. 280 (2002)
-
[Publications] 村田政穂: "ブナ科樹木に対るRaffaelea sp.後接種の組織解剖学的観察"日本林学会大会学術講演集. 113. 659 (2002)