Research Abstract |
窒素存在下で木材を熱処理したときに現れる誘電的性質の変化を,周波数20Hz〜1MHz,温度-150〜20℃の範囲で調べた。また,水分吸着に現れる変化を,20℃での水分吸着等温線と吸着水に関係する誘電緩和を測定して調べた。500〜600℃で熱処理した全乾状態の試料において,一つの大きな誘電緩和が認められた。600℃の結果について,20℃でのCole-Coleプロットより求めた緩和強度は,約65の大きな値を示し,プロットの軌跡は,半円に近くなった。500℃以上になると,試料の電気伝導率が著しく増加することから,試料中に高い伝導率をもつ炭化した部分が形成されるものと考えられた。熱処理試料を絶縁体中に回転楕円体の導電体が分散する系とみなし,誘電正接-周波数の対数曲線にMaxwell-Wagnerの不均一誘電体理論を適用した。計算値と実験値の間によい一致が得られたことから,この緩和が界面分極に基づくものと推定した。一方,相対湿度32.8%,64.9%,84.9%,94%および100%で調湿した熱処理試料についての誘電測定において,吸着水に関係する一つの誘電緩和が認められた。一定周波数で比べたとき,緩和の現れる温度位置は,熱処理温度300℃を境として異なり,水分吸着機構が変化することが推察された。吸着等温線は,300℃まで逆S字型を示したが,処理温度とともに,含水率は,全ての相対湿度の領域で低下した。400℃以上では,等温線は,逆S字型を示さなくなり,300℃に比べ,全ての相対湿度の領域で含水率が増加した。500℃と600℃では,相対湿度60%以下で含水率が減少した。700℃では,含水率は,600℃の結果に比べ,相対湿度20%以上の領域で大きく増大し,50%を越えると飽和した。以上の結果から,水分吸着は,300℃を境として変化し,水酸基などの吸着点に吸着する機構から,微細な空隙に凝縮する機構へと変化するものと考えられた。
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