Research Abstract |
本研究ではD型(非天然型R,R配置)リン脂質の高感度分析法の確立と海洋生物,特に海洋細菌におけるその分布と機能及び生合成経路を解明することを目的とし,本年度は以下のことを明らかにした. (1)昨年度に引き続き,海洋細菌32株(vibrio, Pseudomonas, Altermonas, Psychrobacterなど)を新たに培養し,菌体膜を構成する主要リン脂質であるホスファチジルグリセロール(PG)を分離して,その立体構造をキラルHPLC法で決定した.その結果,Vibrioを含む12種から,D型(非天然型R,R配置)配置のPGが検出され(総PG中1〜7%の割合で存在),R,R型PGが海洋細菌に広く分布することが明らかとなった. (2)昨年度,大腸菌PGの立体構造に及ぼす培養温度の影響を検討した結果,温度の上昇につれて,R,R型PGの割合は著しくに増加することが認められた.このため,本年度は高温性細菌Bacillus 6株を培養して,PG組成を測定した.その結果,いずれの株からも高濃度のR,R型PGが検出されたことから,細菌はPGの脂肪酸組成ばかりでなく,PGの立体構造をも変えて環境の変化に適応していることが明確となった. (3)R,R型PG(非天然型)とR,S型PG(天然型)を迅速に分析するためのカラムスイッチングHPLC法を確立した.この方法の適用により,分析に必要であったPGの単離と誘導体の精製課程が不要になり,異性体の分析がより簡単に正確に行えるようになった. (4)R,R型PGはホスファチジル基変換反応か,sn-グリセロール1リン酸経路,またはR,S異性体のラセミ化によって生成することを考察した.
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