Research Abstract |
本年度は,歯根膜,口腔粘膜,咬筋などに分布する三叉神経領域を電気刺激した場合のABRを記録することにより,電気刺激が聴覚伝導神経系に及ぼす影響を検索した.実験には,ペントバルビタール(25mg/kg)を腹腔内に投与し麻酔したモルモットを用いた.ABRの記録電極は頭頂部,左右乳様突起部上の皮下に設置し,後頭部の皮下に接地電極を装着した.モルモットを頭位固定装置に固定後.音刺激(クリック音,Rate ; 9.5Hz)を与えるためのスピーカーをモルモットの外耳道に挿入した.音刺激は100dBから始め5dBステップで音圧を減少させ,すべての応答が消失するまで行った.各音圧において誘発される応答を各200回ずつ加算してABRの波形を判定した.電気刺激には,持続時間1msecの定電流矩形波を用いた.この矩形波電流による単発刺激,あるいは1msec間隔での5発,10発,20発のtrain pulse刺激を与えた.なお,刺激強度は任意に変化させた.電気刺激は歯根膜,口腔粘膜,咬筋へ与えた.電気刺激前のABR(コントロール)を記録した後,電気刺激を与え,再びABRを記録した.電気刺激前のABRには,I波,II波,III波,IV波,V波,VI波の6波の応答が認められ,これらの応答は音圧の低下に伴い潜時が遅延した.単発刺激およびtrain pulse刺激を与えたときもこれらの応答に変化は認められなかった.また,単発刺激およびtrain pulse刺激において刺激強度を任意に変化させたときもABRに変化は認められなかった.以上の結果から,一過的な電気刺激では,ABRの変化は認め難いことが示された.すなわち,顎口腔領域への疼痛刺激等では,顎関節症にみられるような耳症状の発現はもたらされないことが示唆される.したがって,顎関節症における耳症状の発現機序を明らかにするためには,咬合低下,咬合挙上等を施したモデルモルモットを作成し,慢性実験を遂行する必要性があると考えられる.
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