Research Abstract |
放射光用ミラー,次世代半導体デバイス用Siウエハなど,大面積にわたってnm以下オーダの形状精度を有する表面が必要とされつつある.大面積の表面形状計測法に広く用いられている光干渉計は,多点を同時に,かつ高速に計測でき,光学系の構成が簡単であるなどの利点がある.しかし,計測基準面の形状精度で決まる計測精度が可視光波長に対しλ/50といわれており,nmオーダ以下の計測精度の実現が難しい.これに対し,点回折干渉計(Point Diffraction Interferometer ; PDI)は微小開口による光の回折波面が球面に非常に近い(10^<-5>λ以下)ことを利用し,これを干渉計の基準波面とすることによって,これまでの実体基準による精度限界を克服している.位相シフト干渉法(Phase-Shifting Interferometry ; PS)を併用したPDI装置は,Extreme UltraViolet Lithography (EUVL)装置の結像性能評価法や,同装置を構成する非球面ミラーの形状計測法として研究が盛んである.本年度は,光ファイバによる2つの点光源を利用するタイプのPS-PDI装置を試作し,市販の凹面鏡の計測を開始した. PS-PDI装置の診断光源にはHeNeレーザー(波長;632.8nm,出力;5mW)を用いた.アイソレータを通過したビームは,偏光ビームスプリッターにより2光束に分岐され,非球面レンズを介して可視光用のシングルモード光ファイバに導入される.2つのλ/2板は,一方を2光束の分岐比の調整のため,他方をファイバからの出射光の偏光面調整のために用いている.光ファイバから放射される2つの回折球面波のうち,一方は被測定面に照射され,他方を計測基準面として用いられる.PS法の実施のため,干渉縞を発生させる都合上,2つのファイバを相対させ近接させる.このため,ファイバ先端部は溶液エッチング処理により10μm程度まで先鋭化した.また,迷光対策として,黒色トナーをファイバ側面に付着させ,ファイバ先端部におよそ15度の斜め研磨を施すことで,球面波の出射方向を調整し,波面全体が計測に利用できている. 拡散板に投影された干渉縞は,CCDカメラで撮影される.被測定面はピエゾ素子内蔵のステージにより駆動され,連続的に位相シフトさせた7枚の干渉縞を取得し,フーリエ変換法に基づく位相解析によって形状誤差を算出する.装置系全体は除振台上に設置され,断熱材で囲われており,空気の温度変動を1秒当たり1/1000℃程度に抑えている. この装置を用いて市販の凹面鏡(曲率半径;500mm,直径;30mm)を計測した.連続して5回計測したデータの平均形状の,真球面からのずれを評価したところ,PV値80nm程度であることが分かった.この5回の計測データの,各画素でのばらつきを調べると,平均で2nm程度,PV値で5nm程度であった.これらの数値は計測の再現性を意味するが,振動対策やCCDカメラのframe rateの最適化によってさらに低く抑えることが可能である. 一方,干渉計を組み直すことによる平均形状のばらつきを調べると平均で3nm程度,PV値で8nm程度とやや大きくなった.これは,毎回のセットアップにおいて,ファイバからの球面波の被測定面へのアライメント方法に十分な再現性が無いためと考えられ,今後の大きな課題である. また,大型の凹面鏡(曲率半径;1500mm,直径;200mm)を計測した.この計測では,真球面からのズレがPV値3700nm程度であることが分かった.同一セットアップにおける5回の計測データの各画素でのばらつきを調べると,平均で5nm程度,PV値で15nm程度であった.干渉計を組み直すことによる平均形状のばらつきを調べると平均で20nm程度,PV値で120nm程度となり,既述の小ミラーの結果よりもかなり大きな値となった.これは,干渉計の距離が長くなっているために,振動に対してより敏感になっていることが理由の一つであろう.また,このミラーの収束波面はかなりの収差を持っており,集光点もかなり広がっていることが想像でき,干渉計を組みなおす際にかなり異なったセットアップになっていると考えられる.これらの問題点の解決にも,先に述べたように干渉計の高精度なアライメント方法の確立が重要と考えている.今後は計測精度の向上および平面計測を行っていく.
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