Research Abstract |
原子間力顕微鏡(AFM)に温度センサーを内蔵したカンチレバープローブを利用し,形状と温度情報を同時に画像化する走査型熱顕微鏡(SThM)が研究・開発されてきたが,従来手法では,熱的に計測さる物理量が試料とカンチレバー間を移動する熱流の大小であり,温度計測の定量性や再現性の低さが問題となっていた.本研究では,従来の受動的温度計測法に対し,カンチレバー上の熱流を計測し,その情報をカンチレバー温度調整機構にフィードバックし,常にカンチレバー温度を試料温度と一致させる制御を行い,接触条件や試料の熱物性値に影響されずに温度を定量的に計測可能な能動的温度計測手法をSThMに導入し,試料の絶対温度を10nmオーダーの空間分解能で計測するSThMの開発を目的とする. 研究は,熱流検出,加熱,温度検出の3つの機能を持つ酸化シリコン製マイクロカンチレバープローブの開発,アナログ回路による安定したフィードバック回路の開発,真空環境におけるAFM上での特性評価の3つのフェーズを実施した. カンチレバーの製作では,予め集中定数モデルによる応答評価を実施し,半導体微細加工技術を用いて試行錯誤の結果,長さ260μm,厚さ3μm,SiO2製の三角形形状カンチレバーにクロム・ニッケルの薄膜でサーモパイル,熱電対,ヒータを内蔵したセンサの開発に成功した.フィードバック回路には,高感度計装アンプ,フィルター回路,平方根回路が組み込まれ,10Hz以下の信号には良好に応答するものが製作された. 性能試験では,まず,静的にカンチレバーと試料を接触させた状態で,金属から樹脂に至る広い範囲の熱伝導率を持つ試料に対して,±1℃の感度で実温度を計測すること,約50Hzの応答速度を持つこと,空間分解能としてカンチレバー先端と試料の接触部の大きさが約30nmであることが示された.また,温度場の画像化試験では,表面の凹凸に囚われず試料温度が計測されること,発熱体の温度を正確に計測可能なことが示された.
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