Research Abstract |
本研究では,まず台風の性質を表す基本パラメータ(台風の移動方向,移動速度,中心気圧の低下量,最大旋衡風速半径,年平均上陸数など)に関する新しいデータベースを構築し,日本における台風の確率モデルを作成した。具体的には,まず台風気圧場同定の際には天気図の等圧線情報と気圧の地上観測データとを融合利用する手法を開発し,気圧場同定の成功率を従来の13%から66%へ向上させた。これにより,日本を含む極東アジアをカバーできる台風データベースの作成に成功した。そして,このデータベースを基に,台風の統計的性質を表す新しい確率モデルを提案した。本モデルでは台風気圧場や台風移動速度に対する近似精度は大きく向上され,また従来の確率モデルにより求められた風速値の長い再現期間における過大評価も是正された。本研究で提案された確率モデルを基に作成された台風シミュレーションプログラムを用いて,日本を代表する6つの気象官署(那覇,宮崎,大阪,千葉,仙台,札幌)を対象に10000年分の台風を発生し,上空風の極値分布を求め,実台風データを基に算定された上空風と比較することにより,モデルの予測精度を検証した。その結果,本確率モデルにより求められた年最大風速の100年と1000年再現期待値は従来のモデルに比べ,それぞれ最大11%と19%を低下し,実台風の値とよく一致した結果を得た。 次に,複雑地形と地表面粗度を有する山岳地帯における台風接近時の強風場の予測手法を提案した。具体的には,まず一様で平坦な地形を対象に流体力学の基礎式Navier-Stokes方程式に基づき,台風接近時の上空風の予測式を導出し,これにより,台風の移動に伴い,台風進路右側の風速の増大を表現することができた。そして,台風時の大気境界層を記述する基本パラメータを提案し,台風時の大気境界層の高さは風速の増大に伴い増大しない現象を説明することに成功した。地衡風時の大気境界層の性質は地球の自転による惑星渦度(コリオリパラメータ)により支配されているのに対して,台風時の大気境界層の性質は風の旋回により発生する渦度と惑星渦度との和になる絶対渦度により支配され,また台風時の大気境界層は上空風速と絶対渦度との比からなる長さスケールに対して相似であることを明らかにした。台風時の上空風速モデルと初年度に開発した局地強風予測モデルを用いることにより,台風接近時の局地強風の高精度な予測を実現した。 最後に,平成14年10月1日に関東に上陸した台風21号を対象に台風シミュレーションを行い,台風21号による送電鉄塔被害が発生した水郷地区の強風特性並びに鉄塔倒壊現場周辺の強風分布を明らかにすると共に,現地観測から得られた強風データと比較することにより,台風接近時の本システムの予測精度を実証した。
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