2002 Fiscal Year Annual Research Report
ネパールに多発するBudd-Chiari症候群の成因と肝発癌の臨床病理学的研究
Project/Area Number |
13576004
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Research Institution | KURUME UNIVERSITY |
Principal Investigator |
鹿毛 政義 久留米大学, 医学部, 教授 (80148840)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
豊永 純 久留米大学, 医学部, 教授 (00098881)
神代 正道 久留米大学, 医学部, 教授 (90080580)
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Keywords | Budd-Chiari症候群 / 膜様閉塞 / うっ血肝 / 門脈圧亢進 / 肝部下静脈閉塞 / 細菌感染 / 血栓 / ネパール |
Research Abstract |
ネパールのBudd-Chiari症候群(BCS)の臨床ならびに病理形態の特徴について、整理し、まとめた。 対象と方法は、カトマンズのBir病院でBCS症例に対して施行された肝生検症例81例(男39人、女29人、平均年齢38才)。これらの症例を、急性型、亜急性型、慢性型に分類し、臨床病理学的検討を行った。 結果は次のようにまとめられた。1.BCS症例の93.0%が、膜様閉塞(MOVC)と呼ばれる肝部下大静脈の閉塞性変化を主病変とし、超音波、下大静脈造影の画像所見は、肝部下大静脈は膜状変化、狭窄、を呈し、血栓であることが示唆された。臨床症状は、肝腫大、腹水、腹部膨満、発熱が、3型に共通して高頻度に観察され、腹痛、下痢などの腹部症状の頻度も高かった。急性型では、黄疸の出現が8例に認められた。食道静脈瘤は慢性型に9例にのみに認められた。ただし、急性型に対しては、内視鏡検査、食道造影検査はほとんど行われていなかった。臨床的にアルコール性肝障害と診断された症例の頻度は、急性型が高く、53%であった。亜急性型でも約3分の1の症例はアルコール性肝障害と診断されていた。血液培養陽性例は全体で18例であり、急性型では8例と最も3型の中で頻度が高かった。細菌の種類は、最も頻度が高かったのは黄色ブドウ球菌であり、その他種々の細菌が培養された。 肝生検組織像:約半数の症例がうっ血性肝病変を呈し、約1/4の症例がアルコール性肝病変を示した。1.うっ血性肝病変を呈する症例。急性のうっ血肝からうっ血性肝硬変に至るうっ血性肝病変のスペクトラムが見られた。急性期、亜急性期の症例では、肝小葉中心帯領域の類洞の拡張が目立ち、赤血球の充満うっ血が観察された6ヶ月以上長期にうっ血が経過する慢性期のBCSでは、中間帯領域に肝細胞の脱落とともに線維化が観察された。線維化の進展に伴い、うっ血性肝硬変を呈する症例も認められた。慢性のうっ血性肝病変を基礎に、急性のうっ血像が加重した組織像を呈する症例も3例に見られた。2.アルコール性肝障害像を呈する症例。Mallory body、類洞内線維化、好中球浸潤など特徴的なアルコール性肝炎を呈する症例や小結節性のアルコール性肝硬変が観察された。これらの症例の多くでは、画像診断で下大静脈の閉塞が確認されているにもかかわらず、中心帯領域の類洞の拡張がみられる程度で、アルコール性傷害像が主体をなし、うっ血性病変が判然としなかった。3.軽度の壊死炎症反応を呈する非特異性肝炎症例。これは、多くは腹膜炎などの腹腔内感染症が示唆される症例にしばしば観察された。 カトマンズのBCSの疫学と臨床像の特徴は、衛生環境の悪い地域の社会経済の低い階層で、低栄養、アルコール中毒などの背景因子を有し、細菌感染を契機にBCSが好発する。今回の組織学的検討でも、これらの背景因子を反映するように、うっ血性肝病変以外にもアルコール性肝病変も約1/4の症例にみられた。また、敗血症ないしは菌血症を示唆する、類洞内のリンパ球や好中球の増生が観察された症例もあった。ネパールのBCSの成因は,不明であるが、おそらくは感染により肝部下大静脈の血栓性静脈炎が生じ、器質化血栓の転帰としてMOVCが形成されると推察される。
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