2001 Fiscal Year Annual Research Report
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13610013
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Research Institution | Sendai Shirayuri Women's College |
Principal Investigator |
岩田 靖夫 仙台白百合女子大学, 人間学部, 教授 (30000574)
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Keywords | デモクラシー / 正義 / 公共性 / 理性 / 中間の国制 / 社会の階層的構造 / 幸福 / 大衆 |
Research Abstract |
本年度、私は研究をデモクラシーの問題に集中した。先ず、五月の日本哲学会のシンポジウム「正義と公共性」で私は司会者を務めたが、全体の論議を「公共性とはなにか」という問題に収斂した。公共性とは、常に支配権力の意向を反映するものだが、それ故に時代とともに変遷し、現代では民衆一般の意向を表すものと考えられている。デモクラシーはこの意味での公共性に支えられて成立するが、しかし、今や、NGOに見られるように、公共性は国境を越えて広がる状況に入ったが故に、デモクラシーとして国家もまた一国規模では完結しえないであろう。七月には、『人間会議』第二巻に「現代政治にもの申す」というエッセーを書いたが、その中で私は、デモクラシーの基礎としての公共的理性は教育によって一般民衆の中に育成されねばならぬものであり、この理性を身につけた民衆の一人一人が、自律的な生き方を確立し、国家のあり方に責任をとる意識をもったとき、真に「善き国家」が成立する、と論じた。八月には、エルサレムで一週間にわたり国際プラトン学会が開催され、プラトンの『法律』が討議の主題となった。私はこの会議に参加し、九月の日本ギリシア哲学会でその要点を報告した。プラトンは晩年には人間の自律能力に絶望し、人間の暴力と欲望を制御するには法律による厳しい規制による他はない、と考えたようだ。だから、ここで構想されている国制はデモクラシーではなく、哲学者による絶対王制である。次いで、十一月の哲学会のシンポジウム「哲学は社会め変革に寄与しうるか」では、私は提題者として「最善の国制」について論じたが、それはアリストテレスの言う「中間の国制」、現代人の言う「デモクラシー」である。この国制は、少数の知的・倫理的エリートに支配権力を委ねる体制ではなく、平凡な多くの人々の同意に基づく体制である。この体制において人間の自由と平等が実現される。しかし、デモクラシーにおいても杜会の階層的構造はなくならない。豊かな者と貧しい者、優れた者と劣った者、との差異をどうして克服できるだろうか。二〇〇二年の四月には、京都フォーラムで「デモクラシーと幸福」という論題のもとに国際会議が開催される。私はそこでこの社会の階層的構造の問題をとりあげ、人間の幸福をどこに見定めるべきかを論ずる予定である。
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Research Products
(4 results)
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[Publications] 岩田靖夫: "デモクラシーと幸福-自己実現と自己否定-"京都フォーラム会報(2002年4月). (2002)
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[Publications] 岩田靖夫: "現代政治にもの申す-哲学者はこう考える-"人間会議. 第2巻. 60-68 (2001)
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[Publications] 岩田靖夫: "アリストテレス『政治学』における「中間の国制」"思想. 第920号. 59-77 (2001)
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[Publications] 岩田靖夫: "神なき時代の神-キルケゴールとレヴィナス"岩波書店. 193 (2001)