2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13610043
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Research Institution | IWATE UNIVERSITY |
Principal Investigator |
中村 安宏 岩手大学, 人文社会科学部, 助教授 (10282089)
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Keywords | 思想史 / 近世史 / 皇統 / 江戸 / 幕府 / 儒者 / 儒学 / 儒教 |
Research Abstract |
本年度は近世後期の幕府儒者の思想について、昨年度の思想面での考察を踏まえて、文教政策面を中心に検討した。いわゆる三大改革の文教政策については、これまで十分に解明されたとは言えない。そこで寛政改革および天保改革の文教政策について、その内容とともに享保改革からの継承関係にも注目し、これらにかかわった幕府儒者の思想史的意義について検討した。彼らが行った業務としては、試験・釈奠・出版・検閲・外交・編纂がある。本年度はこれらの業務のうちとくに編纂、教育、検閲に注目し、東京大学史料編纂所の林家本、国立公文書館内閣文庫の昌平坂学問所旧蔵本を中心に史料収集とその分析を行った。 その結果、1、編纂について、林述斎らは東アジア世界を視野に入れつつ、皇統が保持されてきた日本は伝統・外来含めて文化書籍保存において優れた場所であるとの認識をもっており、これが当時述斎の指揮下で行われていた編纂事業を支える思想の一つとなっていたことを明らかにした。2、人材登用策についてーこれは教育策と密接にかかわるものであるがー、享保期室鳩巣の「行状」重視の策と柴野栗山の策との継承関係をより明確にすることができた。3、検閲についても、幕府儒者との関係についての重要な史料を得ることができた。検閲は天保期から、従来の書物屋問屋仲間に替わって幕府儒者が中心になって担うようになり、自主規制から直接統制へと変わっていくが、幕府儒者たちは言路を開くべく、従来は出版不可能であった政治にかかわる著述(荻生徂徠『政談』、中井竹山『草茅危言』など)について、出版を許可していく経緯をより層明確にすることができた。 従来、幕府儒者の思想史的意義については、体制維持のための役割ばかりが強調されてきたが、実際はそればかりではなく、文教面での改革にも深くかかわっている。この点については他の業務も含め、今後さらに明らかにしていく必要があると考える。
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Research Products
(2 results)