2001 Fiscal Year Annual Research Report
イソップ風動物寓話に偏差として表現された挿絵画像の示す寓話の変容と可塑的本質
Project/Area Number |
13610058
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
樋口 桂子 大東文化大学, 国際関係学部, 教授 (10156573)
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Keywords | 挿絵 / 寓話 / 動物 / イソップ |
Research Abstract |
挿絵つきイソップ風動物寓話集の豊かな変遷史は,ヨーロッパだけのものではない。日本や中国といったアジア諸国における伝播の上にも,興味深い跡が残こされている。ただし両者の変遷の質は同じではない。その差異に注目することは,東西の「譬え」に対する考え方の相違を露わにするとともに,テクストという言語手段と挿絵という視覚的・造形的な表現媒体の底にある美的・修辞的本質を明らかにしてくれる。今年度取り上げたのは,ヨーーロッパの寓話集としては,16・17世紀エンブレム本型の動物寓話集・ボードワン版動物寓話集・ラ・フォンテーヌの挿絵付き『寓話詩』集,日本のものとしては,『万治本伊曽保物語』・ゲラールツ原本の『動物図譜』,中国のものとしては,イソップ動物寓話『伊索寓言』である。とくにそれらのテクスト内容と挿絵の表現手法の相違を,<現実>表現という点に的を当て,おたがいに引き比べながら考察した。より具体的には,種々の動物に与えられる役割の分担・性格付与という点に的を絞った。今年度の考察を通して,ラ・フォンテーヌの『寓話詩』集の動物のもつ役割の意義変化と,寓話の根本的変革を浮き彫りにすることができた。アレゴリーの精神は西洋思想において本質的なものであって,動物寓話にも顕著に見られるが,動物寓話の修辞的な図式的なアレゴリー構造は,ラ・フォンテーヌ以降の近代動物寓話においては乗り越えられた。ヨーロッパに起こったこのような変化は,少なくとも日本と中国においては認められない。東洋におけるイソップ風動物寓話の中の動物の性格づけ・役割付与には昔話や民話の影響が強く,ラ・フォンテーヌのような形の境界線は引かれないように見える。
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Research Products
(1 results)