Research Abstract |
フランスを代表する映画監督であったルネ・クレールをめぐって,同国の映画批評におけるその評価の変遷を検証し直し,なかんずく彼の"自己反省的"な映画観に対する関心の推移を辿ることで,映画的言説における"同時代性"の意義と問題点を明らかにすることが本研究の目的とするところである。数年来取り組んできたこのテーマのもとに,本年度もまた関係する資料の調査と収集を行い、論考を進めた。 まず始めに,昨年度の研究実績報告書の提出後,春期休暇中にパリに研究出張に赴き,主として,彼のキャリアの内,これまで調査が不十分であった部分について,さらに資料を収集することに努めた。特に,彼が1930年代にイギリスに渡って監督した作品や,第二次大戦中にアメリカで監督した作品については,数多くの貴重な批評文献を収集することができた。また,1920年代末に彼の監督作として企画されながら,結局,他の監督によって制作されることとなった『ミス・ヨーロッパ』(アウグスト・ジェニーナ監督,1930)について,クレールによる脚本と完成した映画の異同を比較し,彼の自己反省的な映画観の発露を検証することができた。 上記出張の後,本年度は,この研究を最終的に単行書の形にまとめるべく,執筆作業を進めてきた。これまで,彼のサイレント時代,トーキーへの移行期,第二次大戦後のフランス映画界への復帰,ヌーヴェル・ヴァーグの展開といった,主だった時期についての論述は既に執筆を終えている。しかし,その過程で,さらに検証や確認を必要とする論点が幾つか出てきたため,今年も本報告書の提出後,春期休暇を利用してパリに出張することにした。今回は文献資料の調査に加え,パリのシネマテーク・フランセーズ等での研究試写も予定している。 今回の出張の成果も踏まえ,2003年度のなるべく早い時期に残りの部分の執筆を完了して,同年度中に刊行に漕ぎ着けたいと考えている。
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