2002 Fiscal Year Annual Research Report
「他者の心」概念の発達に関する比較認知発達科学的研究
Project/Area Number |
13610087
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Research Institution | KYOTO UNIVERSITY |
Principal Investigator |
板倉 昭二 京都大学, 文学研究科, 助教授 (50211735)
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Keywords | 心の理論 / 誤信念課題 / ロボット / 心理動詞 / 意図の帰属 / 映像理解 |
Research Abstract |
本年度は、昨年に引き続き「他者の心」概念に関連する実験を複数おこなった。以下それぞれの研究ごとに記述する。【1】ロボットを用いた誤信念課題:まず、昨年度予備的におこなった、ロボットを用いた誤信念課題の追加データを収集し、昨年度得られた結果を確証することができた。幼児はロボットにもヒトと同様の誤信念を帰属させるが、その質問の仕方が、心理動詞(mental verb)を用いる条件、例えば、「どちらに入ってると思っているの?」といったような質問に対しては、ヒトに対する反応とは異なっていた。すなわち、ロボットに対しては、心理動詞を帰属させない傾向が認められた。これは、ロボットとヒトを幼児がどのように区別しているかに関わる大変興味深い結果となった。 【2】テナガザルを対象とした映像情報の理解:テナガザルを被験体として、選択課題場面で、他者の示す行為の理解を映像および現実場面で手がかりとして与え、正しい選択肢を選ぶためにそうした情報を利用できるかどうかを検討した。映像場面では、実験者が正しい方のカップを指さしで示す場面、または、餌を隠す場面がリアルタイムの映像で示された。現実場面では、餌の入ったカップへの指さし、もしくは実際に餌を隠す場面が被験体に直接示された。その結果、テナガザルは、餌隠し場面および指さしが映像により示された場合でも、その情報を問題解決の手がかりとして使用することができた。また、比較認知科学的見地からの比較研究のため、ヒト幼児(「2歳6か月〜3歳児」を対象にデータを収集した。分析は完全には修了していないが、映像場面では、指さしのほうが若干成績が上がる傾向が見られた。今後さらに詳しく分析する予定である。 【3】乳児による新奇者への反応:乳児が極めて早い時期から母親と母親以外の女性の弁別が可能であることはすでに多数の報告がなされている。本研究では、乳児のさまざまな年齢の人の映像を呈示し、表情や注視時間を指標としてそれぞれの刺激に対する行動を分析した。刺激映像は、被験児と同年齢の乳児の男児と女児、中学生男女、母親と同世代の男女、老年期の男女であった。最も注視時間が長くなったのは乳児の映像刺激に対してであった。また、老人に対する反応では、祖父母と同居している被験児とそうではない被験児で差が見られた。同居している被験児では、老人に対する注視時間がそうではない被験児よりも長くなった。すなわち、より正確に自分の祖父母と弁別できる場合に、注視時間が長くなったのではないかと解釈された。なお、表情に関しては特に記述すべき差はなかった。 【4】乳児におけるアニメーションオブジェクトへの意図の帰属:乳児を対象として、コンピューター画面に呈示されるアニメーションオブジェクトに心的状態もしくは意図を帰属させるか否かを検討した。三角の物体と視覚の物体があり、それぞれが、丸い物体の行為を助けようとするもしくは邪魔しようとする場面を見せたのち、丸物体が、それぞれの物体に近づく場面を見せる。その時の注視時間を計測すると、邪魔したほうに近づく場面を見たときに注視時間が長くなることがわかった。
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Research Products
(7 results)
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[Publications] 板倉昭二: "心の発達と進化の解明に向けて"岩波「科学」. 72. 442 (2002)
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[Publications] 板倉昭二: "自分を知ること、他者を知ること"大学と科学. 10-21 (2002)
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[Publications] 板倉昭二: "自分を知る。他者を知る"発達. 91. 103-111 (2002)
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[Publications] Kumashiro, Ishibashi, Itakura, Iriki: "Bidirectional communication between a Japanese monkey and a human by eye gazing and pointing"Current Psychology of Cognition. 21. 3-32 (2002)
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[Publications] 板倉昭二 他: "幼児はロボットに誤信念を帰属させるか"情報処理学会関西支部大会 講演論文集. 93-94 (2002)
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[Publications] 竹下秀子, 板倉昭二: "ヒトの赤ちゃんを生みだしたもの、ヒトの赤ちゃんが生みだすもの"赤ちゃん研究. 2. (2003)
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[Publications] 板倉昭二 他: "チンパンジーの認知と行動の発達"京都大学学術出版(友永・田中・松沢 編著). 508 (2003)