Research Abstract |
「中心市街地の再開発は,都市の景観にいかなるインパクトを与えているのか」,そして「それは,結果的にいかなる社会関係の変化をもたらしているのか」という問いに導かれた本研究は,物理的空間の変遷と住民意識の接点に照準している。したがってこうした問いを解明するために建築学的景観調査を援用して実査し,さらに環境社会学や都市社会学の方法を駆使して分析を行ってきている。2002(平成14)年度は,引き続き歴史的環境問題としての「小樽運河論争」の調査を中心に,ヒアリングと定点観測調査,そして土地利用の歴史的変遷の遡行調査を行った。 (1)運動参加者の3つの「水脈」:ヒアリング調査からの発見 小樽運河論争の調査では,景観保存運動参加者へのヒアリングと,問題とされた当該計画策定の経緯の現地調査を実施してきたが,その中で運河保存運動に加わった人々が,単なる「住民」や「市民」ではなく,いくつかの社会的集団・層を水源とする,いくつかの水脈の合成体であることが明らかになってきた。分析から,運河の固有の価値を守ろうとするグループ,運河を観光開発の資源と見なし,その効果的活用のみに関心を寄せる層,そして運河を市政批判のひとつの材料ないしは好機ととらえて参加してきた層,といった相互に異なる3つの水脈の同床異夢が,保存運動の舞台裏であったと思われる。これは公共事業の市民的公共性といった今日的議論に関わる論点であり,ヒアリング調査の貴重な成果であったといえよう。 (2)土地利用と土地所有:土地利用の歴史的変遷の遡行調査から 1997年から継続している運河港湾地区及び中心市街地における景観変化調査を引き続き実施する一方で,本年度から土地利用の歴史的変遷を辿る文書調査を実施した。具体的には,土産物店舗化の著しい土地8筆を取り上げ,閉鎖登記簿などの史料で,明治年間からの土地利用,土地所有者,分筆の有無などを調べた。現在,鋭意分析中であるが,観光化にいたるまでの変化を類型化しつつあるところである。 以上が第2年度目の研究実績の概要であるが,こうした調査・研究の成果は,論文(渡戸他編『都市的世界/コミュニティ/エスニシティ』,明石書店,2003年2月刊,第8章)という形ですでに一部を発表済みである。また,2003年6月開催予定の国際シンポジウムでも成果を発表の予定である。
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