2002 Fiscal Year Annual Research Report
札幌農学校とアイヌ民族学との関わりについての歴史的研究
Project/Area Number |
13610362
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Research Institution | Hokkaido Tokai University |
Principal Investigator |
沖野 慎二 北海道東海大学, 国際文化学部, 助教授 (50250494)
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Keywords | 文化人類学 / 科学史 / アイヌ / 札幌農学校 / 八田三郎 / 進化論 |
Research Abstract |
本年度は、明治末期の札幌農学校に赴任、その後、北海道帝国大学時代(昭和初期)まで同校の博物館長を務め、アイヌ民族学の草分けの一人となった動物学者・八田三郎の主に動物学に関する著作の分析を中心に、彼の学問的背景、特に当時の学問的潮流あるいは思想的潮流について、主に北海道大学図書館および国立国会図書館において文献調査した結果、彼がなぜ後にアイヌ文化研究を志向したのかについての背景の一端が明らかとなった。 1.八田三郎が明治43年に著した「新撰動物学教科書」は一見すると当時の標準的な動物学教科書であるにもかかわらず、その内容には、アイヌ民族をはじめ北方民族や世界各地の民族の動物利用について言及するなど、後の民族学に通ずるものが多数散見できた。それらの記述は、八田の本務先が北海道という土地柄のため、明らかに国策である「殖産興業」あるいは開拓政策を意識したものであることは疑いないが、その背景には本書で言及されている当時我が国に導入されたダーウィンの進化論の考え方が色濃く反映されているように思われる。また、自然界における動物および人類(人種・民族)の分類学的・生態学的位置付けと「利用厚生」の有り方、保護鳥令の精神に関する言及を考慮すると、八田のアイヌ民族学志向には、当時の「進化論」がその大きな背景としてあったものと考えられる。 2.八田が明治44年に著した「熊」は、その表紙がサハリン先住民族の熊の像をモチーフとしたり、また、ページ数の半分以上をアイヌと熊との関わり(狩猟法、儀礼など)や、近隣の北方民族との関連について詳述するなど、動物学というよりはむしろ民族学の色彩が極めて濃い著作である。同書には、アイヌの自然観・宗教観に対する一定の理解を示しつつも、やや不正確な解釈が目立つのみならず、「南方の農耕民」に対する「アイヌ=北夷=狩猟民」という差別的な図式や、観光に絡んだ「北海道・アイヌ・熊」というステレオタイプの連想を明言するなど、現代的な問題点も孕んでいるのが注目される。後に彼が提唱する「アイヌ伝統文化の保護の必要性」の論調は、同書で応用動物学的視点から言及している「熊の保護の必要性」と同一の視点に立っている可能性が高い。
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