2003 Fiscal Year Annual Research Report
札幌農学校とアイヌ民族学との関わりについての歴史的研究
Project/Area Number |
13610362
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Research Institution | Hokkaido Tokai University |
Principal Investigator |
沖野 慎二 北海道東海大学, 国際文化学部, 助教授 (50250494)
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Keywords | 文化人類学 / 科学史 / アイヌ / 札幌農学校 / 進化論 |
Research Abstract |
今年度は、アイヌ民族学確立の大きな背景の一つと推測される明治期の日本における「進化論」に関する文献(国立国会図書館所蔵図書および購入古書類)の調査を中心に、この3年間に得られた成果を総合した結果、以下のことが判明した。 1.札幌農学校関係者が博物館に寄贈したアイヌ資料は少数であったが、一方、人類学・考古学資料の寄贈例は少なくないことから、アイヌに対する潜在的な関心が高く、アイヌ民族学が芽生える素地は十分に整っていたものと思われる。 2.明治期の北海道は、多くの欧米人が訪れ、アイヌ民具の収集(または購入)やアイヌの取材・調査が頻繁に行われていた。その中には進化論の影響を受けた自然科学系研究者も含まれ、札幌農学校関係者と接触する機会が少なくなかった。 3.札幌農学校は初代校長W・S・クラークの教え(キリスト教の教義)の影響のため、進化論に対して消極的だったといわれているが、実際は当時の進化論の流行-明治から大正期にかけて国内で膨大な数の関係書が出版された-を反映し、アイヌを含めた人種論や近代国家の形成等について盛んに議論が行われ、特に志賀重昂(第4期生)の多くの著作にそれが見え隠れしている。 4.札幌農学校末期に着任した動物学者で後にアイヌ民族学の先駆者の一人となった八田三郎の直接の恩師である箕作佳吉(帝国大学理科大学教授)はスペンサーやモースの影響を受け、進化論を背景とした人類学的話題も広めていた人物であることから、八田もその影響下にあったものと推測される。 以上の点を総合して、明治期に「進化論」や「アイヌ」の話題が流行した社会情勢のもと、札幌農学校においてそれらを受容し議論する下地が形成されていたこと、さらに進化論の素養のあった八田三郎が着任したことが、後のアイヌ民族学確立の大きな要因になったものと思われる。
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