2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13610446
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Research Institution | TOKYO INSTITUTE OF TECHNOLOGY |
Principal Investigator |
早坂 眞理 東京工業大学, 大学院・社会理工学研究科, 教授 (80164929)
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Keywords | リトアニア大公国 / 近代ポーランド史 / 多元文化社会 / オーストリア・マルクス主義 / 文化的自治論 / 新渡戸稲造 / 柳田國男 / 連邦制国家 |
Research Abstract |
最終年度において研究を総括し、以下を確認できた。郷土派がその活動を開始したのは、第一次世界大戦とロシア革命の勃発という国際環境の激変の時代であり、往時のリトアニア大公国領の復活をめざす機運が高まったときであった。往時のリトアニア大公国は、近代の国民国家とは異質な多民族国家であり、民族自決が叫ばれた時代の要請に応えるには不適であった。郷土派は、その打開策として、連邦制国家としてリトアニア大公国を復興することをめざした。こうした連邦化を視野に入れる郷土派の歴史観からは、民族主義史観あるいは素朴な民族解放論とは無縁であることが窺える。在地社会でベラルーシ語の啓蒙活動に献身したプロニスワフ・タラシキエヴィチと、郷土派の論客タデウシ・ヴルブレフスキを例に比較対照し、正反対の双方の主張を個別に論じても無意味であり、むしろ当該地域の多元文化社会を構造的に把握することこそ必要であることが確認できる。郷土派は、出自をみると在地のポーランド系エリートであったとはいえ、排他的なポーランド至上主義を断固として拒否し、多元民族社会の共存共栄の可能性を提唱した。ヴルブレフスキの政治論を分析してみると、オーストリア・マルクス主義の"文化的自治論"を髣髴とさせるものさえ認められる。郷土派の歴史観は、民族解放論に彩られた近代ポーランド史学をも見直し、ステレオタイプ化された歴史解釈を比較史の観点から読み直す機会を与える道標でもある。この視角は、日本近代史との比較検討を強く要請するものであり、とりわけ19世紀末にヨーロッパで探求された"郷土"の発見が世界史的にみて同時代性と普遍性をもち、その根底に農民問題の解決が共通課題であったことを示唆している。具体的には、新渡戸稲造と柳田國男の民俗学、すなわち"地方"研究と郷土派の"郷土(krajowosc、tutejszosc)"の発見とが共通項で結ばれていたことを、本研究では指摘できた。
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Research Products
(1 results)