2001 Fiscal Year Annual Research Report
ヨーロッパ史の諸時期における時間意識の様相についての研究
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13610461
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
三宅 正樹 明治大学, 政治経済学部, 教授 (50078284)
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Keywords | 時間意識 / 進化論 / 『種の起源』 / 『存在の大いなる連鎖』 / 『空想から科学へ』 / ヘッケル / オッペンハイマー / 「存在の連鎖」の「時間化」 |
Research Abstract |
ヨーロッパ史の諸時期における時間意識の様相の中で、本年度は特に十九世紀半ばから二十世紀初頭にかけて、知識人のみならず一般民衆の時間意識にも決定的な影響を及ぼした進化論に焦点を当てて考察を行なった。進化論は、ダーウィンの著書『種の起源』によって初めて唱えられたと理解されがちであるが、ラヴジョイの大著『存在の大いなる連鎖』は、すでに十八世紀半ばからベルリン科学アカデミー総裁モーペルチュイや『百科全書』の編集の中心となったディドロー、『自然の体系』を著わしたドルバックなどによって、進化論の先駆的形態が提唱されていたことを明らかにしている。ダーウィンの『種の起源』の画期的な意義は、進化のメカニズムとしての自然淘汰の原理の提唱にあったと考えられる。この原理は、機械論的であって、むしろ唯物論の方向につらなる性格を有していた。エンゲルスがダーウィンを『空想から科学へ』の中で賞賛したことはよく知られているが、ダーウィンの進化論をドイツに導入した生物学者ヘッケルは、これより以前に進化論を唯物論の方向で理解した,この意味での進化論は、ドイツ語圏の社会科学の分野に、オーストリアの社会学者シェッフレにより導入され、グンプロヴィッチによって体系化され、さらに『国家論』で知られるオッペンハイマーに継承された。ドイツとオーストリアの社会科学への進化論の影響のさらなる解明は、本研究の今後の課題を形成する,進化論をこのように理解すれば進化と進歩は同義語ではなくなる。進化論それ自体、進歩の理念を支持するものではない。しかし、十九世紀の楽天主義の雰囲気の中で両者はしばしば同一視された。時間意識との関連において、進歩の理念が重要であることはいうまでもないが、進化論もまた時間意識とおおいに関連している。ラヴジョイが、進歩の理念と進化論とを「存在の連鎖」の「時間化」において共通すると見ていることは示唆的である。
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