2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13610498
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長島 弘明 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (00138182)
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Keywords | 建部綾足 / 伝記 / 片歌 / 国学 |
Research Abstract |
研究の3年次で最終年度に当たる今年度は、主として建部綾足と門人・知友との交渉の実態を明らかにし、あわせて3年間の成果として「建部綾足略年譜」を作成した。今年度の実績は以下の通りである。 1.素輪(前橋)・雲郎(富岡)等を中心とする上毛の門人との接触を再検討し、宝暦13年からの綾足の片歌唱道に関して、信濃の門人連とともに上毛の門人連の存在が、片歌理論形成の重要なモメントとなっていることを明らかにした。 2.安永元年8月の讃岐行については、従来は周辺資料から、そうした旅があったことのみが知られていたが、8月11日の出立から同月23日の讃岐着までを詳細に記した紀行文である『みちゆき風俗』を新たに見いだし、その船旅の詳細を明らかにした。 3.綾足国学の地方門人である下郷学海あての書簡を検討し、書簡のやりとりによる『万葉集』講義の具体的様相を明らかにし、また国学者としての門下経営の実態を明らかにした。送付されてきた門人の説を、添削しつつ質問に答えるという文通講義の形式を主とし、その成果を門人の中心人物に公刊させるというスタイルは、俳諧における門人指導と共通している。 4.綾足は賀茂真淵の門人であるが、真淵門下における綾足の交友の実際や評判について検討し、真淵門下では一貫して異端であり評価が低いことを明らかにした。また、真淵の孫弟子であり、一時は綾足ついて学んだことがあるという上田秋成とは、従来国学上の接点は見いだせなかったが、『詞藻小苑(詞草小苑)』の書名を明記する秋成書簡を見いだし、万葉学において両者が関係を持つことを明らかにした。
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