観客論的視点から見た英国ルネサンス演劇のマルティプル・プロット構造の研究

2001 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 13610546
• Research Institution: Hirosaki University
• Principal Investigator: 田中 一隆 弘前大学, 人文学部, 助教授 (10227126)
• Keywords: 英国ルネサンス劇場 / マルティプル・プロット構造 / 観客の受容意識 / 虚構と現実 / 『チェインジリング』(The Changeling) / 月下世界(The sublunary world) / 『マクベス』(Macbeth) / 「門番の場」(The Porter Scene)

Research Abstract

本研究は、英国ルネサンス演劇に極めて頻繁に見られる複数のプロットの並立構造の存在意義を、当時の観客がどのような意識で演劇を観ていたのか、という演劇受容の観点から考察しようとするものである。当時の演劇のサブ・プロット構造は、純然たる虚構世界とは区別された、観客の日常的現実世界と意味ある関連を持った仮構世界の一部であり、観客の虚構受容を日常的現実の準拠枠で支える、当時の「劇場の演劇」にとって必須の一部であった。本研究の目的は、かかる認識を実証的に検証することにある。
今年度の研究実績は以下の2点である。
1.ウィリアム・ロウリー(william Rowley)とトマス・ミドルト(Thomas Middleton)の合作劇で、純然たるダブル・プロット構造を持った『チェンジリング』(The Changeling)という作品のサブ・プロット構造は、従来の研究が不要なものとして無視してきたのだが、それは誤りであって、この劇の中心的な主題である「月下世界」(The sublunary world)という当時の支配的な世界観を、ロンドンの日常的現実である精神病院と意味ある関連を持たせながら表象しようとする、「劇場の演劇」にとって極めて重要なものであった、という知見を得た。
2.本研究は、主にシェイクスピア(william Shakespeare)以外の作家を対象にしたものだが、「観客の演劇受容」という観点から捉えた場合、シェイクスピアの『マクベス』(Macbeth)の、いわゆる「門番の場」(The Porter scene)も、観客の演劇受容を基本的な部分で規定する、マルティプル・プロット構造と同じような効果を発揮している、という知見が得られた。具体的には、『マクベス』が上演された当時の重大事件であった、いわゆる「火薬陰謀事件」(The Gunpowder Plot)という観客の日常的現実が、「二枚舌」(equivocation)という観念を通して観客が虚構を認識するその枠組みを与えている、ということが検証された。

Research Products

• [Publications] 田中 一隆: "「The Changelingの中のchangelingとchange-ダブル・プロット再考」"人文社会論叢(弘前大学人文学部). 第7号. 103-121 (2002)
• [Publications] 田中 一隆: "「時間、永遠、二枚舌-『マクベス』における観客の視点」"シェイクスピア-世紀を越えて(日本シェイクスピア協会編、協会創立40周年記念論文集、研究社、2002年春刊行予定).