2003 Fiscal Year Annual Research Report
罪の意識のレトリックをめぐる近世英国演劇・バラッド・パンフレットに関する研究
Project/Area Number |
13610547
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
境野 直樹 岩手大学, 教育学部, 助教授 (90187005)
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Keywords | ルネサンス英国演劇 / 民衆文化 |
Research Abstract |
本年度はEarly English Books Onlineの中から、主としていわゆるBlack lettersで印刷されたパンフレット類を調査した。多くは画像データのままで不鮮明だが、さらにそうした出版事情の特殊性についても考察できた。とりわけ今日に至るまで「ジプシー」と呼ばれ続ける無頼な人々の存在、そのPedler's Frenchと呼ばれる独特の隠語の体系を詳述したパンフレット群、また夜警やNewgate監獄の官吏が収監者にとって複雑なかたちで脅威となるさまを告発した"Belman of London"や"The Black Dog"関係のパンフレットは、倫理的に両義的、多義的なレトリックを模索する方図において、上記暗躍者たちの隠語同様、きわめてユニークな言語的展開を示す。John Awdelay, The Fratenitye of Vacabondes(1561)からThomas Harman, Thomas Dekker, Samuel Rowlands,果てはRichard Head, English Rougue(1671-80)へと至る闇の世界での隠語の体系の記述の伝統はきわめて興味深い。代表的パンフレット作者と見なされがちなRobert Greeneが、Harman, Awdelayの請け売り同然であったことも、新鮮な発見であった。この隠語の「辞書」はホリンシェッドの『年代記』にもHarrisonの執筆によりほぼ逐語的に転載されていることも確認できた。バラッドもまた、同様にBlack lettersによる、主として出版業者の営利追求の故に、体裁と内容の一貫性を深読みすることが無謀に思える程「いい加減な」出版物であったとの感触を得るに至ったが、そこにはパンフレット同様、演劇作品とのレトリックにおける微妙な呼応関係があるようである。最終年度はこれを解明したい。
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Research Products
(1 results)