2001 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ文学における地方主義(Regionalism)の体系的研究
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13610575
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
田中 久男 広島大学, 大学院・文学研究科, 教授 (30039135)
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Keywords | フォークナー / ヘミングウェイ / モリスン / スタイロン / 地方主義 / 南部 / 波紋理論 / 氷山理論 |
Research Abstract |
本研究は4年計画のもとに、最近の新しい文化研究の視点を取り込んで、文学作品における地方がそのアイデンティティの基盤とする場所の感覚や精神風土という概念をも包摂する新しい地方主義の研究に一つのパイオニア的な体系化の道筋を付けることを目指すものである。すなわち、合衆国の地域分けとして従来より使われてきた東部、南部、中西部、西部という4区域が、東高西低の文化的力学、つまり、ニューイングランドを含む東部を合衆国文化の中心とする政治的、経済的力学と連動したヒエラルキー化した地域文化観を踏襲する傾向があった。その偏りを現今の批評の柱であるジェンダー、階級、人種という3視点に宗教やエスニシティや時代の観点をも導入することで見直しを目的としている。 上述の研究目的に沿って、本年度の研究計画は以下のように遂行し実績を上げた。 四つの地域のうちで本研究申請者が最も長く研究に打ち込んでいるウィリアム・フォークナーを輩出した南部を最初に対象として、今後の地方主義の研究モデルとして固めるように努力した。フォークナーはかつてアメリカにおいて最も同質的な特徴を保持している地域は南部とニューイングランドだと規定したが、南部はニューイングランドにもまして、ごく最近まで伝統的な特質を保っていた。その南部もかつてC.H.ホールマンが解き明かしたように実は、ヴァージニア州出身のスタイロンの郷土でキャヴァリアの伝統を誇るタイドウォーター、トマス・ウルフを生み出した平等主義的な気風が強いピードモント、フォークナーの生まれ育った深南部と三態に大きく分かれている。そこで本年度は中西部出身のトニ・モリスンと比較するかたちでまずフォークナーの南部性の特徴を捉えた。同じように、日本ヘミングウェイ協会において行った特別講演をもとに、中西部出身のヘミングウェイの「氷山理論」とフォークナーの「波紋理論」とを分析の中心軸にして、南部文学における歴史と時間の表象を考察した。さらにウィリアム・スタイロンの『闇の中に横たわりて』の舞台であるタイドウォーターを対象にして、その南部性をも考察した。平成13年度は南部だけでなく、平成14年度に研究対象とする東部に関する研究図書もわずかながら購入して、次年度初旬の研究に備えた。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] 田中久男: "フォークナーとモリスンの黒人表象"英語青年. 第147巻第2号. 94-96 (2001)
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[Publications] 田中久男: "メタピエタ小説としての『闇の中に横たわりて』--スタイロンの埋め込まれた衝動"国重純二編『アメリカ文学ミレニアムI』南雲堂. 245-272 (2001)
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[Publications] 田中久男: "ヘミングウェイとフォークナー--「氷山理論」と「波紋理論」"ヘミングウェイ研究. 3号. 1-15 (2002)