2002 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ文学における地方主義(Regionalism)の体系的研究
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13610575
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
田中 久男 広島大学, 大学院・文学研究科, 教授 (30039135)
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Keywords | フォークナー / ヘミングウェイ / モリスン / pariah / Sula / The Sound and the Fury / Faulkner / Morrison |
Research Abstract |
1.本研究は平成13年度から4年計画のもとに、最新の文化研究の視点を取り込んで、アメリカ文学作品における地方主義の表象(地方がそのアイデンティティの基盤とする場所の感覚や精神風土という概念をも包摂する)の研究に、一つのパイオニア的な体系化の道筋を付けることを目指して出発したものである。すなわち、合衆国の地域分けとして伝統的に使われてきた東部、南部、中西部、西部という4区域が、東高西低の文化的力学、つまり、ニューイングランドを含む東部を合衆国文化の中心とする政治的、経済的力学と連動した序列化した地域文化観を踏襲する傾向があった。その偏りを現今の批評の柱であるジェンダー、階級、人種という3視点に宗教やエスニシティや時代の観点をも導入して見直すことを目的としている。 2.上述の研究目的に沿って、本年度の研究計画は以下のように遂行し実績を上げた。 本研究申請者は、長く研究に打ち込んできたウィリアム・フォークナーを輩出した南部を平成13年度に考察したが、その研究成果を基盤にして平成14年度は、フォークナーの文学的遺産の後継者であるトニ・モリスン(オハイオ州出身)と、フォークナーのライバルであったアーネスト・ヘミングウェイ(イリノイ州出身)の2人の大きな作家を中心にして、中西部の特質を探求した。祖父の世代に南部から北部へ移住したアフリカン系アメリカ人のモリスンと、WASP(=White Anglo-Saxon Protestant)の背景を持ち、原初的な感覚を求めて移住したヘミングウェイでは、場所との関係において大きな違いがある。しかし、フォークナーを輩出した南部を鏡にして中西部の特質を探れば、(1)東部に対抗するシカゴを中心にした強い文化的な風土、(2)自由と平等というアメリカ国家創造の理念を重んじる気風、(3)諸々の人種と文化が混じり合う多様性によって育まれた堅固な個人主義の伝統、(4)東部と西部をつなぐ地政的な力学から、工業と農業の混交的な性格が生み出す活力と激しい変化、(5)土地の特徴が希薄化する度合いが高いだけに、作家を輩出する割合も現在では低下して行くという歴史的な皮肉、等々の内実をアメリカ文学の全体の中で分析し究明した。平成15年度に研究対象とする西部に関する研究図書もわずかながら購入して、本研究の課題に取り組む今後の準備をした。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] 田中久男: "ヘミングウェイとフォークナー-「氷山理論」と「波紋理論」"ヘミングウェイ研究(日本ヘミングウェイ協会機関誌). 第3号. 15-30 (2002)
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[Publications] 田中久男(TANAKA Hisao): "Sula and caddy : Intertexual Resonances between Sula and The Sound and The Fury"Hiroshima Interdisciplinary Studies in the Humanities. Vol.1. 1-14 (2002)