2003 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ文学における地方主義(Regionalism)の体系的研究
Project/Area Number |
13610575
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
田中 久男 広島大学, 大学院・文学研究科, 教授 (30039135)
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Keywords | フォークナー / ヘミングウェイ / モリスン / メルヴィル / ホーソーン / Melville / Faulkner / Morrison |
Research Abstract |
1.本研究は平成13年度から4年計画のもとに、最新の文化研究の成果を採り入れながら、アメリカ文学作品における地方主義の表象(地方がそのアイデンティティの基盤とする場所の感覚や精神風土という概念をも包摂する)の研究に、一つのパイオニア的な体系化の道筋を付けることを目指して出発したものである。すなわち、合衆国の地域分けとして伝統的に使われてきた東部、南部、中西部、西部という4区域が、東高西低の文化的力学、つまり、ニューイングランドを含む東部を合衆国文化の中心とする政治的、経済的力学と連動した地域序列観を踏襲する傾向があった。その偏りを現今の批評の柱であるジェンダー、階級、人種という3視点に宗教やエスニシティや時代の観点をも導入して見直すことを目的としている。 2.上述の研究目的に沿って、本年度の研究計画は以下のように遂行し実績を上げた。 本研究申請者は、長く研究に打ち込んできたウィリアム・フォークナーを輩出した南部を平成13年度に考察し、その研究成果を基盤にして平成14年度は、フォークナーの文学的遺産の後継者であるトニ・モリスンと、フォークナーのライバルであったアーネスト・ヘミングウェイを中心にして、中西部の特質を探求した。平成15年度は、さらにそれらの成果を踏まえて、歴史的にアメリカ文化の基盤を築いてきたニューイングランドを対象とし、その地の代表的存在であるメルヴィルとホーソーンというWASP(=White Anglo-Saxon Protestant)の作家を、歴史的、文化的に考究した。その結果、東部の特質として、(1)ピューリタニズムという宗教的な清浄化の衝動と、それに基づく奴隷制廃止論者の強い伝統、(2)自由と平等と幸福の追求というアメリカ国家創造の理念を重んじる気風、(3)キリスト教の直線的な時間概念を軸とする文明の進歩への強い信念と、反抗者メルヴィルの文学に見られる懐疑と逸脱、(4)南部や中西部の農業中心の経済体制と対称的に、産業中心の社会体制や価値観に育まれた堅固な個人主義の伝統、等々の諸相を、いわゆるアメリカン・ルネッサンス文学の中で分析し究明した。7月末に10日間ほどミシシッピ大学のチャールズ.Rウイルソン教授と討議しながら、地方主義的視点から捉えた南部人の北部観を考察し、その内容を本年度の研究を深化させるのに大いに役立てた。
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[Publications] 田中久男(TANAKA Hisao): "Two American Dreamers in Faulkner's Fiction"Hiroshima Interdisciplinary Studies in the Humanities. 第3号. 28-37 (2003)
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[Publications] 田中久男(TANAKA Hisao): "Modes of 'Different' Time in American Literature"The Japanese Journal of American Studies. No.15. 48-70 (2004)