2001 Fiscal Year Annual Research Report
劇作家アーヴィン(St.John Ervine)の演劇作品の総合的研究
Project/Area Number |
13610599
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
河野 賢司 九州産業大学, 国際文化学部, 教授 (30234701)
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Keywords | セイント・ジョン・アーヴィン / アイルランド演劇 / ユニオニズム / アビー劇場 / 北アイルランド紛争 |
Research Abstract |
セイント・ジョン・アーヴィン(St.John Ervine,1883-1971)の刊行された戯曲をはじめ、書誌、関連著作や論文、わが国での翻訳書などをほぼすべて入手し、主として初期(1910年代)に書かれた6作品の分析と検討を行なった。この成果は日本英文学会中部支部第53回大会で口頭発表し、内容をさらに増補して勤務先大学の紀要論文にまとめた。 発表論文で指摘したことを列挙すると、(1)アーヴィンは従来、イギリス演劇の伝統に位置づけられ、北アイルランド作家としての地方色や土着性は顧みられなかったが、初期作品の『混信婚』や『寛大な恋人』『オレンジマン』などにみえる、信仰をめぐる深刻な主題、とりわけ新旧教徒間の宗派対立を描く状況設定を考えれば、北アイルランド作家としての再認識や新たな考察が必要とされること、(2)強固なユニオニストと一般に思われているこの作家が、初期作品ではむしろユニオニズムの呪縛にとらわれた老父の頑迷さを批判的に描いており、幼時に実父を亡くしたこの劇作家の伝記事実との心理的関連からも、注目に値すること、(3)第一次大戦中の9ヶ月間、ダブリンのアビー劇場の支配人に就任したものの、相容れない政治理念と演劇観で役者たちとの軋櫟や反発を招き、そのことがアイルランドを捨てる契機となった事実は、アーヴィンのユニオニストへの決定的転向を示す逸話であるのみならず、アイルランド演劇史の視点からも重要な出来事であること、などである。 なお、論文には6作品の詳細な梗概を収め、こんにち読まれることの稀なこの劇作家の簡便な作品案内にも努めている。
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Research Products
(1 results)