2002 Fiscal Year Annual Research Report
劇作家アーヴィン(St.John Ervine)の演劇作品の総合的研究
Project/Area Number |
13610599
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
河野 賢司 九州産業大学, 国際文化学部, 教授 (30234701)
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Keywords | セント・ジョン・アーヴィン / アイルランド演劇 / ユニオニズム / アビー劇場 / 北アイルランド紛争 |
Research Abstract |
初年度に行なった、セイント・ジョン・アーヴィン(St.John Ervine,1883-1971)の初期戯曲(1910年代)の考察を経て、本年度は中期および後期の戯曲を検討した。 第一次大戦従軍で片足切断を余儀なくされる重傷を負ったこの劇作家は、20年代に入ると---ベルファーストの造船業を背景に父と息子の信条の対立・葛藤を描いたThe Ship(1924)を除けば---主としてロンドンの商業劇場で大衆受けのする成功作を次々に発表する。劇団内部の裏幕を揶揄したMary Mary Quite Contrary(1923)、文無し男と金持ち娘を描いたAnthony and Anna(1926)、浮気心を抱いた中年男を風刺したThe First Mrs. Fraser(1929)などがこの範疇に属する。これらの中期作品には、軽妙な喜劇の衣の下に、戦争で辛酸をなめた劇作家の、人生への暗い陰影が投影されているのが透けて見える。 後期にあたる30年代以降の戯曲は再び初期作品と同じ北アイルランドに舞台を移すが、Boyd's Shop(1936)では頑迷固陋な役割はむしろ若い世代の登場人物に託され、Friends and Relations(1947)では遺産相続を巡る骨肉の謡いが描かれている。 アーヴィン演劇は、北アイルランドの人々の持つ誠実・勤勉・忍耐といった美点とともに、あからさまな偽善や頑迷さへの痛烈な風刺をリアリズムの冷徹な筆致で描いた点で、後代の劇作家たち、とりわけO'Caseyに強い影響を与え、アイルランド演劇史において重要な役割を果たしたといえる。本研究は、こんにち殆ど顧みられることのないアーヴィン再評価を喚起するものである。
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Research Products
(1 results)