Research Abstract |
最近の認知意味論や文法化研究で指摘されることの多い空間表現から時間表現の意味変化・意味拡張の様相について,フランス語の単純前置詞,複合前置詞,また日本語,英語の関連表現を中心にデータを収集し,通言語的共通性と各言語の特殊性について考察した.また,比較・程度表現との平行性について,特に意味の主観化との関係で考察した. 単純前置詞としては,a, dans, sur, en, par, de, devant, derriere, sous, entre, vers, via,複合前置詞としては,au bord de, au bout de, au coeur de, en l'espace de, a l'etape de, jusqu'a, a partir de, a la sortie de, pres de, en face de, le long de, autour de, aux alentours de, au-devant de, a l'approche de, au-dela de, a la suite de, a traversなどの多義性を実例をもとに検討し,いずれにおいても空間から時間への文法化が生じていること,複合前置詞については意味変化のルートが比較的明快であるが,これは語彙的意味の希薄化が完全ではないことによることなどを明らかにした.各例において空間的意味であるか時間的意味であるかの判定は必ずしも明確ではない場合も多いが,これは起源がメタファーやメトニミーによると考えられるこれらの意味変化・意味拡張においては,それらの転意の主体が発話者個人かあるいは言語使用者に共同化されているかに程度差を導入すべきことを示唆するものである. 関連して,日本語の「あと」,「まえ」,「さき」などの空間表現の時間的意味への文法化,フランス語plus ou moins, encore moins, qui plus est, meme,英語more or lesse, still less, what's more, evenなどにおける多義性を考察し,ここに空間表現の時間的意味への変化との共通性を指摘し,尺度の主観化という仮説を提起した. 詳細については,「研究成果報告書」を準備中である.
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