2001 Fiscal Year Annual Research Report
日仏中世末演劇における聖と俗の関係性の歴史的比較研究―「花」のテーマを中心に
Project/Area Number |
13610606
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
川那部 和恵 奈良教育大学, 教育学部, 助教授 (70332765)
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Keywords | 聖史劇 / 世阿弥 / 花 / 象徴 |
Research Abstract |
本年度は、アルヌール・グレバンの『受難の聖史劇』と世阿弥の『風姿花伝』を対象として、両者においてそれぞれに聖俗の観念に包括的にかかわる根本的イメージとして提起されている「花」のモチーフの象徴体系を同定すると同時に、そうした観念の由来や意味を、相互対照的にそれぞれの演劇環境や文化的背景の中に考察した。その結果、以下のようなことが明らかになった。 1.いずれもその「花」は、象徴領域が自然界から超自然へと跨がることによって、アンビヴァレントな価値を有することになっている。 2.グレバンにおける「花」はキリストの受肉に収束する。予言成就の贖罪としてのこの「花」は、神から人間へ、至高天から俗世へと下降してくる。一方、世阿弥は、自然界に咲く俗世の花から超自然的かつ驚異的な「真の花」に向かう求道的なヴェクトルを追求したのであるが、そこに我々は、ある種の聖性への上昇という方向性をシンボライズする「花」をみることができる。両者の「花」はこのように逆行関係にある。 3.こうした相違には、少なくとも、第一に当時の両国における芸術の美的趣味の違い(聖史劇は宗教的玄義を写実的に可視化するジャンルであるのに対し、<もののあわれ>や<幽玄>は内在化された美を探究する)、第二に作家個人の趣味の違い(聖職者グレバンは芸術に傾倒したが、遊芸者の世阿弥は禅宗に心酔していく)、そして第三には観客層の違い(聖史劇の観客は在俗信徒を中心とする広く一般大衆であったが、能の観客はおもに精神の陶冶を求める武士に限定された)が、大なり小なり関連しているといえる。
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Research Products
(1 results)