2003 Fiscal Year Annual Research Report
日仏中世末演劇における聖と俗の関係性の歴史的比較研究-「花」のテーマを中心に
Project/Area Number |
13610606
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Research Institution | University of Nara Kyoiku |
Principal Investigator |
川那部 和恵 奈良教育大学, 教育学部, 助教授 (70332765)
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Keywords | 聖史劇 / 花 / 象徴 / 聖と俗 |
Research Abstract |
本年度の計画は、第一に、世阿弥の作品全体の中で「花」の象徴がどのような布置をとっているかを調べた上で、『風姿花伝』と『花鏡』を中心とする能芸論における「花」のもつ意味を超脱や俗世との関係で再度詳細に捉え直すことであり、第二には、上記の結果と、過年度にグレバンの『受難の聖史劇』の「花」について行なった同様の作業からすでに得られている結果とを突き合わせて、両者の「花」の間に見られる相違点を取り出しつつ、日仏の両文化における聖・俗の関係性の特質を明らかにし、同時に、両者の間の協応点を探ることで、文化の違いを超えた聖性・俗性のありようの考察を行なうことであった。 そして、第一についての成果は、平成15年12月、東京日仏会館で開催された国際学会L'ecriture du peu et le haiku. Vide, fragment, emergence dans la poesie contemporaineにおいて、≪Fleur de No et vide : chemin de la creation≫の標題のもと発表して議論に付し、また第二については、その成果を「アルヌール・グレバンと世阿弥における「花」の聖と俗の関係性-『受難の聖史劇』と世阿弥の能芸論伝書の対比を通して」と題した論文にまとめ、平成16年度刊行の奈良教育大学紀要第53巻に公表する予定である。 以上の成果を総括すれば、これらフランスと日本の宗教家と能芸家の言説に現れた「花」は、まずは前者では「愛」を媒介とする聖と俗の交流の概念の表出であるとすれば、後者では「美」を軸とした俗から聖への超越性のイメージを担っており、この点において、各々のジャンルの根ざす文化的背景が起因の違いが認められるが、しかし視点を引いて、両者をそれぞれの内容に準じて、神の救済成就にみる予定調和の運行であれ、あるいは芸的求道行程であれ、いわば巨視的な時間の流れの中で眺めるならば、両者とも包括的には聖・俗の和合と調和の志向において照応しているのであり、聖と俗の問の遠大な循環運動に組み込まれた異次元空間の表象としての「花」というのが、協応点として確認された。
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Research Products
(1 results)