2002 Fiscal Year Annual Research Report
ステファヌ・マラルメと同時代のジャーナリズムとの関係についての研究
Project/Area Number |
13610615
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
川瀬 武夫 早稲田大学, 文学部, 教授 (80177691)
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Keywords | マラルメ / 象徴主義 / 偶然性 / ジャーナリズム / アンケート |
Research Abstract |
本研究課題遂行の2年目は、1年目にひきつづき、マラルメのジャーナリズムにおける活動を概観しながら、各種刊本の蒐集、ならびに在外図書館・研究所を通じての、新聞・雑誌等初出のいわゆるプレオリジナルのフォトコピーの集積につとめた。こうして集められた資料の一部はすでにデジタル・ファイルとしてデータベース化されている。 資料の分析にあたっては、マラルメの各時期におけるジャーナリズムに対する姿勢の違いを浮き彫りにしつつ、彼の詩的営為と彼の同時代的状況への関わりとの接点を具体的に明らかにしていくことに意を用いた。 その結果、今回とりわけ注目に値するものとして検証することができたのは、詩人の晩年における新聞・雑誌媒体上でのアンケート回答のテクストの重要性である。唯一絶対の<書物>の完成にすべてを賭けた「象牙の塔」の詩人という、一般に流布されているイメージとはうらはらに、ここでのマラルメは求められるがままに、自分の周囲の社会のじつに些末な出来事や話題に関する感想を律儀に述べている。これはいってみれば、偶然性を相手どった新しいタイプのディスクールの試みとも見なされるべきであって、やはり詩人の晩年の「折りふしの詩句」の野心的な実験とも相通じる重要な営為であることが明らかになった。 これらのアンケート回答のテクストに刻印されている偶然性の痕跡をさらに深くたどっていくためには、個々の発言がなされた状況を実証的に解明することが必要になるが、そうした研究をより精力的に進めていくことで、晩年のマラルメのエクリチュールの従来あまり関心が払われなかった側面に新しい光をあてることが期待できるであろう。
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